「形」を知ると、身体のしくみと進化が見えてくる!――「キリンと人間、どこが違う?[ゾウは大胆、キリンはエレガントな消化のしくみ] 」郡司芽久
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「形」を知ると、身体のしくみと進化が見えてくる!――「キリンと人間、どこが違う?[ゾウは大胆、キリンはエレガントな消化のしくみ] 」郡司芽久

 キリンと人間はまったく違う動物? 生き物の身体の「形」を比べてみると、意外な共通点が見つかります。動物学者で「キリン博士」こと郡司芽久さんが、動物の身体をめぐる謎やユニークな進化についてわかりやすく解説。浅野文彦さんのイラストも必見!
 今回のテーマは、臓器のなかでも意識することの多い「消化器官」。食べ物の消化は口に入った瞬間から始まっており、「きちんと嚙まないと消化に悪い」はまさにそのとおり。ヒト、キリン、ゾウなど動物による消化の違いにも注目です!
 *当記事は連載第7回です。第1回から読む方はこちらです。

食べる・溶かす・吸収する

「食事」は、私たちの日々の生活を根底から支える非常に重要な活動である。光合成によって生きるのに必要なエネルギーを作ることのできる植物とは異なり、あらゆる動物は、ほかの生物を食べることで、生きるのに必要なエネルギーを得ている。
 呼吸や血液循環がほとんど無意識のうちに行われる活動なのに対し、食事は意識的な行動からスタートする。空腹でお腹が鳴ったり、食べすぎて胃痛や胃もたれに悩まされたり、食あたりでお腹を下したり、はたまた便秘で苦しんだり、消化に関わる器官の悩みは数えきれない。胃や腸などの消化器官は、ほかに比べて意識することの多い臓器かもしれない。
今回は、そんな「消化器官」についてお話ししていきたい。

 消化器官というのは、「口から肛門まで続く長い管状の器官」のことである。場所によって膨らんだりくびれたりしていて、機能や構造に応じて「胃」や「腸」といった名前がついている。これらは「独立した単一の器官」ではなく、「口から続く〝食べものの通り道〞である管の一部」であり、まとめて消化器官と呼ばれている。
 このことは、「口」も消化器官の1つであることを意味する。意外かもしれないが、食べものの消化は口に入った瞬間から始まっているのである。

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 とくに哺乳類においては、消化活動における「口」の働きは無視できない。消化の第1段階は咀嚼(そしゃく)だからだ。「きちんと嚙まないと消化に悪いよ」というのはまさにそのとおりで、咀嚼自体が消化活動の一部なのである。
 哺乳類は、よく咀嚼をする生き物である。魚類や両生類・鳥類・爬虫類など、脊椎動物の多くが食べものをそのまま丸呑みにするのに対し、哺乳類は、基本的にどの種も食べものをよく嚙んでから飲み込む。
 この違いの一因となっているのが「ほっぺた」の有無である。哺乳類以外の動物は、基本的にほっぺたをもたないため、奥歯のほうまでほとんどむき出しになっている。鋭い歯がたくさん生えた口を大きく広げたワニを思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。
 これらの動物の場合、口に入れたものを咀嚼してしまうと、細かく砕かれた食べものが歯の隙間からポロポロとこぼれ落ちてしまうだろう。歯の側面を覆うように発達した「ほっぺた」は、口の中で細かく砕かれた食べものがこぼれ落ちないようにつつみこむ働きをもっているのだ。
 咀嚼には、食べものを細かく砕く働き以外に、もう1つの機能がある。唾液に含まれる消化酵素と食べものをしっかりと混ぜ合わせることで、食べものに含まれるデンプンを分解し、消化しやすくする働きだ。
 咀嚼が終わって飲み込んだ食べものは、食道を通って胃へと移動し、胃酸やタンパク質を分解する消化酵素と混ざり合ってドロドロになっていく。多くの人が想像する「消化」のプロセスをたどっていくわけだ。ドロドロになった消化物は小腸に移動し、脂肪の吸収を助ける消化液(肝臓で作られる胆汁)や、タンパク質・炭水化物・脂質という三大栄養素のすべてを分解できる万能な消化液(膵臓で作られる膵液)と混ざり合ってさらに分解され、最終的に栄養素として吸収される。最後に、大腸で水分やビタミンの吸収を行い、残ったカスがウンチとして排泄される。これが消化の大雑把な流れだ。

 もう1つ、本来の意味とはやや異なるかもしれないが、ヒト特有の〝消化〞がある。それが「調理」だ
 刃物を使って食べものを細かく切り刻んだり、すりつぶしたり、調味料で味をつけたり、火を使って加熱したり。調理というのは、きわめて複雑な作業だ。一部の動物で、狩った肉を埋めて熟成させる(クマの仲間)、食べものを海水にくぐらせて塩味をつける(宮崎県の幸島に生息するニホンザルの集団)などの行動が知られているものの、日常的に調理を行う動物はヒトくらいのものだろう。とくに、火を使った加熱調理は、人類ならではだ。
「火を使うようになったことが、人類に進化をもたらした」という表現を耳にしたことがあるかもしれないが、火を利用できるようになったことの最大の利点は「加熱調理」にある。これこそが、人類進化のカギとなる「脳の巨大化」へとつながっていったのだ。
 ヒトの脳は、ほかのサルの仲間に比べて飛びぬけて大きい。ヒト特有の高次の認知機能は、この巨大な脳に支えられていると言えるだろう(個人的には、ほかの動物の認知機能をヒトがまだ十分に理解できていない可能性も高いと感じる)。
 ただし、巨大な脳には弱点もある。脳というのは、活動するのに大量のエネルギーを必要とする非常に〝燃費の悪い〞器官だ。つまり、巨大な脳をもつことは、余計なエネルギーがかかるということを意味する。燃費の悪さを補うには、より多くのエネルギーを摂取するか、どこか別のところで節約するかの二択である。そこで重要な働きをしたのが、前述した「加熱調理」だ。
 食べものに含まれるタンパク質は、加熱することによって、消化しやすい形に作り変えられる。火を使った調理は、食べものを柔らかくし、消化吸収しやすくする効果をもつのである。とくに肉や魚など、タンパク質が多く含まれる食べものは、火を通すことで、生で食べるときよりも格段に消化しやすくなる。消化吸収がいいということは、すなわち「消化に必要なエネルギーを節約できる」ということだ。
 あくまで仮説の1つではあるが、消化に関わるエネルギーの節約こそが、燃費の悪い「脳」を巨大化するうえで非常に重要だった可能性が指摘されている。
 ヒトを対象とした実験ではないが、ヘビを使用した実験で、食べものを丸ごと与えたときに比べて、細かく切り刻んで加熱調理した餌を与えたときのほうが、消化に必要なエネルギーが20パーセントも減少することが実証されている。

 これを踏まえると、調理とは、本来身体の中で行う消化活動の一部を体外で行う作業だとも言えよう。さきほど「食べものの消化は口に入った瞬間から始まっている」と述べたが、実際には、口に入るよりも前、食事を作るところから消化は始まっているのだ。そう考えると、玉ねぎやにんじんをみじん切りする時間も、単調で面倒な作業ではなく、なんだか荘厳で重要な瞬間に思えてくる。

キリンの反芻(はんすう)

 消化器官の面白いところは、その動物が食べているものの特性を強く反映する点である。ヒトのような雑食性の動物と、キリンのような植物食の動物では、消化器官の特徴は大きく異なる。
 植物を食べて生きる動物にとって一番の課題は、「いかにして植物から栄養を得るか」である。たとえば植物の根や種ならば、デンプンがたっぷり含まれているため、それを消化することで栄養を得ることができる。ところが植物の主成分である「セルロース」についてはそう単純ではない。哺乳類の仲間は、この物質を分解する消化酵素をもたないため、自力でセルロースを消化して栄養を得ることができないからだ。
 では、植物を食べる動物たちはいったい何から栄養を得ているのだろうか? キーワードは「消化の下請け」である。つまり、セルロースを消化できる微生物を身体の中に棲(す)まわせ、自分の代わりに消化してもらうのだ。
 自力で栄養分を得るわけではないので、当然、食べたぶんをすべて栄養として吸収できるわけではない。微生物たち自身が生きていくのに必要なぶんは、彼らの身体の中に吸収され、〝手数料〞として差し引かれる形になる。
「微生物に食べものを供給する代わりに、栄養分を作ってもらう」という、お互いに利益のあるこの相互関係は、「共生」と呼ばれる。

 さて、キリンの場合、この微生物の住処は「胃」である。
 キリンの胃は、全部で4つ存在していて、食べたものが通過する順に「第一胃」「第二胃」「第三胃」「第四胃」と呼ばれる。微生物が生息しているのは、このうち「第一胃」の部分だ。4つのなかで最も大きく、大量の植物を貯留し、微生物による消化・分解を行う機能を担っている。
 せっかくなので、残りの3つの胃についても、基本的な働きを紹介していきたい。
 まず第二胃は、キリンの反芻に関わる部位である。反芻とは、飲み込んだものを吐き出し、再度嚙み直す行動のことだ。なんだかちょっと気持ち悪いように感じてしまうけれど、胃の中で部分的に消化された葉っぱを吐き戻し、繰り返し嚙むことで、硬い葉っぱの繊維が細かくなり、分解されやすくなるのだ。
 小さなコブのような形の第二胃は、胃の中のものを喉に向かって発射する働きをもつ。胃袋がぎゅっと縮むことで、中に入っている内容物がぽんっと押し出される仕組みだ。第一胃で微生物によって少し分解された葉っぱは、いったん第二胃に入り、そこから喉元へと発射され、再び口に到達し、咀嚼されることとなる。これが反芻の全容だ。
 続く第三胃は、微生物による消化と反芻を繰り返してドロドロになった消化物を「選別」する役割をもつ。この胃の内側は、多数のヒダが連なったような構造で、十分に消化されたものだけを第四胃に送り、まだ大きな塊のものは第二胃に送り返す働きをもつ。
 最後の第四胃は、「ヒトの胃と同じように、胃酸を分泌する胃」である。4つの中で胃酸を分泌するのは、この第四胃のみなのだ。第一胃から第三胃は、「胃」という名前はもつものの、実際は食道が変化したものだと言われていて、胃酸のような強力な消化液は分泌しない。そのため、キリンは何度食べたものを吐き戻しても、胃酸で喉や歯を傷める心配はない
 こうした特徴は、キリンだけに見られるものではない。ウシやシカの仲間など、一部の偶蹄類(2本または4本のひづめをもつ哺乳類をまとめたグループ)は「反芻類」とも呼ばれ、みな共通して複数の胃をもち、反芻を行う。たとえばウシの場合は、4つの胃は、それぞれ「ミノ」「ハチノス」「センマイ」「ギアラ」という名称で親しまれている。ただし偶蹄類の仲間の全てが反芻をするわけではなく、雑食性のイノシシやブタの仲間は反芻を行わない。あくまで偶蹄類の一部が獲得したユニークな行動なのだ。

 この項の最後に、ヒトに近しい〝反芻獣〞についてご紹介したい。
 一般に、反芻獣というと、ウシやシカなど偶蹄類の仲間をさすことが多い。ところが、近年の研究により、サルの仲間であるにもかかわらず、反芻とよく似た行動をする種が存在することが明らかになった。立派な鼻が特徴的な「テングザル」である。
 テングザルは、東南アジアのボルネオ島に固有の種で、おもに植物の葉を食べて暮らしている。彼らは、反芻とよく似た吐き戻し行動をすることで、硬い葉っぱを細かく咀嚼し、効率のよい消化を実現していると考えられている。
 テングザルと反芻類の共通点は、反芻だけではない。彼らもまた、ウシやキリンと同様に、4つに分かれた胃をもっているのだ。第一胃にセルロースを分解する微生物が生息する、という点も同じである。
 胃の構造がよく似ているのは、食べているものが類似しているからにほかならない。哺乳類の仲間であるテングザルは、反芻類と同じく、自力でセルロースを分解することができない。そこで、葉食に特化する進化の過程において、テングザルの仲間は複数の胃をもつようになり、そのうちの1つに微生物が棲みつくことで、セルロースを分解して栄養をとることが可能になったというわけだ。
 偶蹄類とサルの仲間は、全く別個の進化を辿ったグループである。しかしながら、「セルロースが多量に含まれた葉っぱを食べて生きる道」を選択した種同士は、同じ解決策へと辿りついたこととなる。このように、異なるグループでありながら似通った方向の進化が見られる現象を「平行進化」と呼ぶ。
 キリンとテングザルは似ても似つかない見た目だが、消化システムに着目すると、きわめてよく似ているのである。

微生物をどこで飼うか

 では、キリンと同じように植物を食べて生活する「ウマの仲間」はどうなのだろうか?
 ウマの胃は、ヒトと同じく1つだけである。微生物が存在する「第一胃」や反芻に役立つ「第二胃」はなく、胃酸を分泌する胃が1つあるだけだ。当然、反芻はしない。
 しかし、第一胃がないにもかかわらず、ウマの仲間も微生物の力を借りて植物から栄養を得ている。この点の〝戦略〞はキリンと同じなのだ。じつは、同じ戦略であるにもかかわらず、両者の間では微生物の棲む場所が異なっているのである。
 キリンをはじめとする反芻獣の場合は「第一胃」に微生物がいたが、ウマの場合は大腸の中に生息している。大腸の中に微生物を棲まわせる動物はほかにもいて、ゾウやサイ、ウサギなどが代表格だ。

 さて、ここでもう一度、消化器官の全体像を思い出してほしい。口から始まり、食道、胃、小腸、大腸、肛門へとつながっていく。胃は胃酸で食べものを分解する働きをもち、小腸は消化物をさらにドロドロに溶かしつつ栄養素を吸収する役割を担う。大腸は、残りの部分から水分やビタミンを吸収する器官だ。
 各臓器の基本的な役割は、ヒト以外の動物でも同様だ。とすると、大腸の中に微生物を棲まわせている動物たちには、どうにも非効率に思える部分が1か所だけある。大腸は、栄養素を吸収する小腸よりも後ろに存在しているという点だ。
 反芻獣の場合は、「胃で微生物に作ってもらった栄養素を小腸で吸収する」という流れになるが、大腸の中に微生物がいる動物の場合は、「ヒトと同じく、デンプンなどは胃で分解されるものの、セルロースは分解されることなく胃・小腸を通過し、大腸で分解されて栄養となる」という流れだ。栄養の吸収を担う小腸を通過したあとで栄養を作り出すのは、「ちょっと遅すぎるのではないだろうか?」という風に感じる。
 こうした動物が、大腸で作られた栄養素をどれほど吸収できているかは、はっきりとわかってはいないようだ。なかにはウサギのように、大腸の中で便を「大腸で分解された栄養をたくさん含む便」と「硬い繊維の塊である便」の2つにわけ、栄養価の高い便を排泄後に食べることにより、小腸で栄養を吸収する種も知られている。とはいえ、ウマなどではそういった「食糞行動」は知られていないようだ。
 私自身、長らく「大腸で微生物に分解してもらうなんて、栄養を十分に回収しにくくて、効率が悪いなあ」と感じていた。キリンが属する反芻類の仕組みのほうがずっと美しく洗練されているように見えたからだ。
 ところが数年前、とある研究会で栄養学の先生のお話をうかがっていたところ、「はっ」とするご発言があった。過去地球上に現れた反芻類は、最大でも1トンほど。一見無駄に思える消化システムをもつゾウのほうが、ずっとずっと巨大化しているのだ。
「なぜ反芻類がゾウほど巨大化できなかったのか」について、明確な答えが得られているわけではないが、1つ、心当たりはある。微生物の力を借りて分解するとき、食べものは長時間その場所にとどまることとなる。微生物の分解速度は、あまり早くないからだ。
 反芻類のように消化器官の最初のほうで滞留する構造の場合、「渋滞」が起こる可能性は高まってしまうだろう。第一胃に食べものが詰まっていたら、それ以上食事をすることはできない。ただでさえ反芻類は、4つの胃の中を順に食べものが移動し、十分に分解されたドロドロの消化物だけが第四胃に到達し、小腸へと向かう仕組みになっている。お腹が空いて何かを食べても、栄養が小腸で吸収されるまでに随分時間がかかってしまうという難点を抱えているのだ。
 一方、大腸に微生物がいる動物は、自力で消化できる部分をさっさと消化し、小腸で栄養を吸収したうえで、残ったセルロースを大腸でゆっくり分解する仕組みだ。大腸に食べものが詰まっていても、胃にスペースがあったら、新たな食べものを摂取することができる。
 反芻類の消化は、とにかく効率重視で、エレガントなやり方だ。一方で、大腸に微生物を飼う動物たちの消化は、多少の効率の悪さには目をつむり、「たくさん食べてたくさん出す」ことを可能にするやり方だ。食べものが少ない環境では、無駄のない前者のほうが適しているが、十分な食べものが存在する環境下では、後者のやり方にも分はある。

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 どちらがより優れているか、私には判断することができない。前者のほうが多様な環境に進出することに成功している一方で、後者のほうが巨大化には成功している。
 エレガントで美しいことが常に優れているわけではない、と思うと、なんだか少しだけはげまされる。

ウンチの違い

 ここまで植物を食べる動物の消化器官の違いを説明してきたが、「動物園で、それぞれの動物の胃の数を観察してみよう!」なんてことはできるはずもないので、こうした〝戦略〞の違いは目には見えにくい。ところがじつは、とってもわかりやすい場所に、明確な差として現れる。それが、「ウンチ」だ。
 何度も反芻し、葉っぱを細かくすりつぶす反芻獣のウンチは、非常に滑らかで、葉の繊維がほんのわずかに残るだけである。ちなみにキリンのウンチは直径わずか2センチほどの小さな球のような形で、テカテカに磨いた泥団子のようでちょっと可愛い。1日におよそ1000粒ほどの大量のウンチを出すそうだ。
 一方ウマのウンチは、「食べたものがそのまま出てきちゃった?」と思わせるようなしっかりした繊維がいくつも含まれていて、反芻獣の滑らかなウンチとはだいぶ趣が異なる。ウンチの様子を観察することで、反芻する動物なのか、しない動物なのかを推理することができるのだ。
 たとえばゾウの場合、直径25センチほどの大きな塊のウンチからは、植物の繊維がいくつも飛び出していて、反芻をしていない様子がうかがえる。ときには果物の皮やタネが出てくることもある。
 反芻類の「繊維がほとんど残っていない滑らかなウンチ」を見ていると、前項と同様、「無駄のない効率的なシステムだなあ」と感嘆してしまうのだが、こちらもやはり、そう単純に甲乙をつけられない部分がある。繊維の破断・分解が不十分なゾウのウンチには、食べもののタネがそのまま含まれることが多々あり、そこから新たな芽が出てくるのだ。反芻によって何度も何度も嚙みつぶされて、できあがった反芻類の滑らかなウンチには、けっしてできないことだ。繰り返し咀嚼する過程で、タネが粉々に砕かれてしまい、芽を出すことができなくなってしまうからだ。
 ゾウは大量の植物を食べ、森を切り拓きながら生きている。それと同時に、さまざまな場所でウンチをして、新たな森へとつながる「種まき」もしているのだ。

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 非効率なことは、人間社会ではうとまれる傾向にある。私自身、効率的な人間でいたいと思うし、効率的なやり方で仕事を進めたい。けれども、いつも必ずそう動けるわけではない。非効率なことをしたとき、そういうやり方でしかできなかったとき、自分のことを「ダメだなあ」と卑下してしまいがちだ。
 ゾウの消化システムは、栄養吸収の面では非効率だ。それでもほかの動物に比類ないほど大きな身体をもち、「森を食べながら森を広げる」というなんとも素敵な行動をする。のんびり優雅な彼らの姿を見ていると、「ま、非効率でもいいかな」という気分になってくる。

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プロフィール
郡司芽久(ぐんじ・めぐ)

東洋大学生命科学部生命科学科助教。2017年3月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了し、博士号(農学)を取得。同年4月より日本学術振興会特別研究員PDとして国立科学博物館勤務後、筑波大学システム情報系研究員を経て2021年4月より現職。専門は解剖学・形態学。第7回日本学術振興会育志賞を受賞。著書に『キリン解剖記』(ナツメ社)。
*郡司芽久さんのTwitterはこちら

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