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『すごい科学で守ります!』のここがすごい! 峰守ひろかず(小説家)

『すごい科学で守ります!』シリーズは、帯にも謳われているように「特撮SF考証」を切り拓いたと同時に、”超二次創作”とでも呼べる、「クリエーターズ・バイブル」の側面を持つ本です。特撮ファンであり、『すごかが』から長谷川裕一ファンになった、小説家の峰守ひろかずさんに、今回合体復刻された『グレート合体愛蔵版 すごい科学で守ります!』の持つ魅力について、存分に語っていただきました。


1.そもそも『すごかが』とは

『すごい科学で守ります!』(以下『すごかが』)。それは、まんが家の長谷川裕一氏が、東映の特撮ヒーロー番組の作中の設定や描写を、「すべての(この本で取り扱っている)ヒーロー作品は、同一時間軸上で起こっているものと、仮定する」「フィルム上で起こったことは、すべて事実である、と捉える」というルールに基づき、豪快かつ論理的に説明していく痛快なシリーズのことである。
 1998年に第一巻『すごい科学で守ります! 特撮SF解釈講座』が発売され、その後2000年と2005年に続編『もっとすごい科学で守ります!』『さらにすごい科学で守ります!』が刊行された。第一巻で取り上げられていたのはスーパー戦隊シリーズのみ(当時の最新作である「電磁戦隊メガレンジャー」まで)だったが、第二巻にあたる「もっと」以降では仮面ライダーシリーズ(「仮面ライダーJ」まで)や、「人造人間キカイダー」「ロボット刑事」を始めとした石ノ森章太郎原作ヒーローズ、さらには宇宙刑事シリーズやメタルヒーロー、不思議コメディシリーズの一部までをも対象に含めて考察している。
 この『すごかが』、特撮ファンの間では長らく語り草になっていたシリーズだが、では具体的にどうすごかったのか。

2.圧倒的な「なるほど」感

 まず挙げておきたいのは、「納得させられる」という快感だ。
「なぜスーパー戦隊シリーズの敵怪人は巨大化し(あるいは巨大ロボや巨大戦力を繰り出し)、なぜヒーローはそれに巨大ロボで立ち向かうのか」のようなよくあるネタに始まり、なぜライブロボとライブボクサーはスーパー合体を果たせたのか、「ギンガマン」と名乗る戦隊が二組存在する理由、ギャバンの乗る超次元高速機ドルギランが電子星獣ドルを格納せずにぶら下げている理由……。
 これら数多の謎への回答を、「お約束だから」で済ませず、スタッフや玩具メーカーの事情などに話を振ることもなく、あくまで作中の描写をベースに、充分に納得できる、なおかつ意外な理由を提示してくれるのが『すごかが』シリーズなのである。
 ここで大事なのが「意外な」というところ。提示される説明にただ筋が通っているだけではなく、「言われてみればなるほど!」という快感が何度も何度も押し寄せてくるのだ。
 仮面ライダー1号・2号の頼れる相棒・滝和也の所属していた「FBI」の謎。ダーク破壊部隊の中でアカ地雷ガマだけが例外的に武器を名前に盛り込んでいた理由。最初のパワーアニマルとは何者で、彼らはファンタジー系の存在なのになぜあんなにメカメカしいのか。果ては、バビロスのシューティングフォーメーションの存在意義からジャンパーソンが変身しない理由まで、視聴者が気にしていなかった事柄までもがスッキリと説明される気持ち良さと楽しさが、『すごかが』にはギッチギチに詰まっている。
 好きな説明はいくつもあるが、中でも「なぜショッカーライダーはあのタイミングで6人出てきたのか」の理由付けについては、『すごかが』内での解説が決してオフィシャルではないことを分かっていてもなお、これしかないと思えてしまうからすごい。

3.作品間を繋げる「文明圏」という視点

 さらに楽しい、あるいは嬉しいのが、各作品の設定をただ補完するのではなく、作品間の繋がりまでをも見出していくことだ。初の宇宙文明由来の戦隊であるデンジマンによって、おおむね三角形をしていれば飛べるという推進技術、通称「デンジ推進システム」が地球に持ち込まれ、これがサンバルカンロボ以降の巨大戦力に生かされた……という史観の説得力と壮大さ!
「どうやって飛んでいるのか」「なぜ同じような形のメカが続くのか」を「すごい科学」の存在を仮定して説明していくスタンスは、読んでいて気持ちがいい。
 作品間の繋がりで言うと、筆者(峰守)が当時大いに感動したのが、全宇宙を俯瞰した○○文明圏という視点の導入だ。三角形で飛ばすデンジ星系文明圏、角ばった形状でデリケートなフラッシュ星系文明圏、車型の乗り物を好むパワータイプのクル星系文明圏といった文明圏が幾つもの星をまたがって広がっており、それらが時に交流する! この世界観の壮大さには圧倒された。
 他にも、「救急戦隊ゴーゴーファイブ」最終回で突如登場したブラックマックスビクトリーロボを、科学技術系戦隊であるゴーゴーファイブがファンタジー系戦隊のギンガマンとの邂逅によって神秘の力の存在を知り、それを解析して実用化に成功したもの――「科学が魔法に、ついに追いついた瞬間」――と位置付ける見方はあまりにも美しいし、敵についても、「究極の遺伝子」こと総統タブーは改造実験帝国メスの副産物ではないか、機械帝国ブラックマグマの支配者「全能の神」はマシン帝国バラノイアの先発隊ではなかったか……といった推測は作品世界の奥行きを感じさせてくれる。

4.ニヤニヤとオイオイ

 好きな説明の話をしているだけで永遠に行数を稼げてしまうので自粛して話を変えるが、『すごかが』の魅力の一つに、解説文の向こうにヒーローや作品世界への愛がはっきり感じとれるという点がある。
 読んでいるこちらも当然特撮ヒーローたちのファンなので、「カーレンジャーは変身のときに車が走ってくる映像が挿入されますから、もしかするとスーツも走ってきているのではないか」といった解説や、マシンマンの出自についての推測については「そうですよねー」とニヤついてしまうし、シャンゼリオンの「最終回の後」についてのコメントには強く同意してしまう。
 もっとも、世界観が統一されているわけでもない作品群を共通の史観で解説するのだから、若干強引なところはどうしても出てくる。だがそこもまた楽しいのだからたまらない。
 スーパー戦隊シリーズの世界にはなぜ「超力戦隊オーレンジャー」と「救急戦隊ゴーゴーファイブ」において二度も西暦1999年が来たのか? 西暦3000年の未来から飛来するタイムジェットはなぜ過去から現代に向かって近付いてくるのか? スピルバン最終回で明かされるクリン星の秘密とは結局どういうことだったのか? これらの難問への回答は論理的かつパワフルで、「いや、そこまで説明します……?」と笑ってしまったりもするわけで、これもまた本書の楽しみの一つだろう。

5.作品世界を肯定する良きガイド

 ここで少し自分の話をさせていただきたい。『すごかが』第一巻が発売されたころの私は、地方在住のオタクな一高校生だった。特撮誌を購読してはいたものの、ファンの集まりに参加したり同人誌を作ったりしているわけでもなく、『すごかが』成立のきっかけとなったSF大会のことも全く知らなかった。なので、この度発売されたグレート合体愛蔵版『すごかが』の巻末スペシャル座談会で語られているような、当時のSF/特撮ファン界隈の空気感や事情なども当然把握していなかったし、「長谷川裕一」という名前は、NHKアニメ『飛べ!イサミ』のコミカライズの人という印象が強かった。
 だが、そんな無知な自分にとっても『すごかが』は充分面白かったし、それ以上に、読んでいて嬉しくなれる本だった。
 現役戦隊に歴代要素が説明なしに投入されるようになった現在ではピンと来ないかもしれないが、当時のスーパー戦隊シリーズは、「視聴者が毎年卒業していくことを前提に作られた、あくまで幼い視聴者のための作品」という印象が(あるいは風潮が)強かったと思う。年長のファンも当然存在したのだろうが、高年齢層向けのムックや特集本も、他の特撮作品に比べると少なかった。
「軽んじられていた」と言うと正確さを欠くが、ともかく『すごかが』は、そんなスーパー戦隊シリーズを取り上げて「君たちが幼い頃に(幼い頃から)親しんできたあのシリーズってこんな面白いんだぞ」と全力で肯定してくれる本であり、そのスタンスが嬉しかったことを覚えている。
『すごかが』で提示される解説は論理的で豪快で、そしてとにかく具体的だ。だからこそ、本編を見返したい、知らない作品の場合はこのシーンを見たい! という気持ちにさせてくれる。デンジパンチを「ヒーローのパンチの中であんな痛そうなパンチはちょっとない」とか、ギャラクシーロボを「これは恐ろしいですよ。ロボットのくせにオーラを持ってますから」などと言われると、実際に見てみたくなるではないか。配信で過去の作品も気軽に見返せるようになった今だからこそ、作品ガイドとしても読まれてほしい本だと思う。

6.時代性と予見性、そしてイマジネーション

『すごかが』は最近刊でも20年近く前の本である。「スーパー戦隊シリーズの最新作がデカレンジャーだった時代」と言えば、どれほど前かピンと来る人はいるだろう。その頃に書かれた本である以上、時代を感じさせるところもある。再読して一番時代を感じたのは、ブルースワットの解説の中の「不況はいまもですが……」というくだりだったが(まさか2023年になっても不況だとは……)、平成ライダー黎明期に書かれたテキストは、スーパーヒーロータイムに大人向けアイテムのCMが普通に流れる今から思うと隔世の感が強い。
 しかし、である。その後の作品を知っているといっそう楽しいのが、『すごかが』のすごいところ。これは予言ではないかと思える箇所が頻出するのだ。
 たとえば「近年、宇宙からやってくる侵略者の規模が少しづつ大きくなっているように思われます」「地球人はより強力な敵を退けるたびに、さらに大きな敵を地球に呼び込んでいるのかも」と言われると、レジェンド大戦を引き起こした某宇宙帝国や全宇宙を支配してしまった某宇宙幕府が思い浮かぶし、「嫌われている? 地球に?」という問いかけからは、地球の一部でありながら最終的には人類の活動を停止させようとした某自称創造主の存在が思い起こされるわけである。
 そう、『すごかが』という本の楽しさは、つまるところこの「想像を膨らませてくれる」という点にあるのだと思う。何せ、ここで語られなかった作品やヒーローのことを私たちは知っている。結果、「この仮説を踏まえると、あの作品のあの描写はこういうことではないか?」と考えさせてくれる……というか、勝手に考えるようになってしまうのだ。
 一ファンとして正直に言うなら、長谷川先生には最新作まで踏まえた新作を書いてほしいとは思う。だが、『すごかが』の新作を書かない理由も座談会でぬかりなく説明されているし、繰り返しになるが、『すごかが』はただネタを羅列するのではなく、「仮説を構築する」という、根源的で長持ちする楽しさを教えてくれる本だ。かつての読者はもう一度、知らない人は今回初めて手に取って、「すごい科学」のすごさを体感してほしいと一ファンとして切に願う。

峰守ひろかず
小説家。電撃小説大賞〈大賞〉受賞作『ほうかご百物語』で2008年にデビュー。主な著作に『絶対城先輩の妖怪学講座』、『妖怪大戦争ガーディアンズ外伝 平安百鬼譚』、『金沢古妖具屋くらがり堂』、『今昔ばけもの奇譚』、『ゲゲゲの鬼太郎』(テレビアニメ第6期ノベライズ)などがある。好きなスーパー戦隊シリーズ作品は『激走戦隊カーレンジャー』や『魔進戦隊キラメイジャー』、好きな長谷川裕一作品は『マップス』『クロノアイズ』『機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト』などなど(挙げきれない)。妖怪関連の仕事が多いのですが、妖怪と同じくらい特撮ヒーローや怪獣も好きなので、そういうお仕事お待ちしております。

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