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池谷裕二+ヨシタケシンスケのそのモヤモヤ、かいけつします 第6回

質問する人
東京学芸大学附属竹早小学校3年~6年生のみなさん
答える人
池谷裕二 薬学博士。東京大学・大学院薬学系研究科・教授。48歳、しし座。好きな食べ物はたけのこ。6歳と3歳の女の子のお父さん。
いっしょに考えてイラストを描く人
ヨシタケシンスケ 絵本作家、イラストレーター。45歳、ふたご座。好きな食べ物はイカ。12歳と7歳の男の子のお父さん。

質問「どうしても自分と友だちをくらべたくなってしまいます。どうしたら直りますか?」 月の金庫(3年)さんより

質問「友だちがとっても、しっとぶかいです。どうしたらその友だちのせいかくは直りますか?」 K.Kさん(4年)より

 月の金庫さんは、普段、どういう点で自分と友だちと比べるのかな。
 ぼくたち大人も同じだよ。「あいつのほうがイケメンだ」「かのじょのほうがいい会社に勤めている」「あの子よりうちの息子のほうがずっと優秀だわ」。こんなふうに人間は、自分と他者(自分以外のもの)を比較することで「幸」か「不幸」かを判断する生きものらしい。
 日本にはこういうことわざがあるよ。

A:隣の花は赤い(となりのはなはあかい)──他人の物はよく見えてうらやましいことのたとえ
B:我が仏尊し(わがほとけとおとし)──自分の大切にしている物は、理屈なしに他人のものより尊く思うことのたとえ

 昔の人も、自分と他者を比較することによって、Aのように自分もそうでありたいと願ったり、Bのように自分のことをひいきしたりしていたんだね。
 西洋にも目を向けてみよう。“rational”という単語があります。聞いたことのない単語だと思うけど、「理性的な」という意味をもっています。理性的とは感情に流されずに冷静に物事が判断できるということ。rationalという単語の成り立ちを整理してみるよ。

 ラテン語のratio(計算)→英語のratio(比・比較)→rational(理性的な)

 これらの単語は語源がいっしょ、つまりきょうだい同士なんだ。そう考えると「比較ができるということは、理性的である」といえそうだ。きっと、月の金庫さんが自分と友だちを比べるときも、どの部分がすぐれているのか、またはおとっているのか、相手をじっくり観察しないと判断できないよね。こういう力があってこそ、人は成長するんじゃないかな。
 それに、自分と他者を比べることは、「自分で自分を認めたい!」という気持ちの裏返しなんだって。アメリカの社会心理学者、レオン・フェスティンガーは次のような「社会的比較理論」を発表したよ。

①人は自分の意見や能力を(自分自身で)評価したいという欲求をもっている
②この評価は、他者との比較をとおして行われる
③しかし、あくまで自分のレベルと近い人と比較して自尊心を維持(いじ)する傾向がある

 「ぼくは結構がんばっている」「わたしは相当いけている」と自分の価値をみとめるために他者と比較することは自然なことだ、といっているよ。自分を肯定(こうてい)することはとても大切なことだから、月の金庫さん、おそれずにどんどん自分と友だちを比べてください。

 続いてK.Kさんの質問を見てみよう。
 友だちが嫉妬(しっと)ぶかいことに悩んでいるとのこと。嫉妬というのは、自分と他者を比べることよってうらやんだりねたんだりする感情だね。これに関して、おもしろい研究があるんだ。ロンドン大学キングス・カレッジのフリードリチ博士らの研究です。
 実験に参加するのは16歳から35歳までの女性18人。この女性たちに、スタイルのいいモデルさんの写真を見せて、「ご自身と比較してください」とお願いする。このとき脳はどう反応するか、「MRI」とよぶ人体の断面像(だんめんぞう)を撮影(さつえい)することのできる装置で、女性たちの脳を調べてみると、ほかの部位(ぶい)よりも活発に反応しているところがあったんだ。どこだと思う? 「不安」や「苦痛」に関係する部位だったんだ。
こうしたことからフリードリチ博士らは、自分と他者を比較するときに生まれる感情は「不安」や「苦痛」に近いと説明しているんだ。
 日本にも嫉妬の感情を調べた博士がいるよ。放射線医学総合研究所の高橋英彦博士たちだ。博士たちは平均22歳の男女19人に参加してもらい、かつての同級生が社会的に成功し、すてきな生活を送っているシーンを想像してもらったそうだ。すると、フリードリチ博士らの実験と同じく、「不安」や「苦痛」に関係する脳の部位が活動することがわかったんだって。
 生活するなかで自分と他者を比べて「いいな~」「ずるいな~」といったうらやむ感情は、それほどマイナスな感情ではなく、ごくごく自然にわきあがる感情なのかもしれないね。
 そう考えると、嫉妬ぶかい友だちにやさしい気持ちをもてそうだし、そもそもその性格をK.Kさんが直すのはちょっと難しそうだ。

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(構成=髙橋和子)

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