阿部智里(「八咫烏シリーズ」『発現』)最新掌編小説 『秘密のお客さま』
累計130万部を突破中の大人気和風ファンタジー小説「八咫烏シリーズ」の著者が贈る、温かで、ちょっと懐かしい、小冒険譚。
1 ホスト、あるいはオーナーの話「なんでこんな所に傘があるんだ?」
不思議そうな父の声に振り向いてそれを見た瞬間、一気に昔の記憶が甦った。
父が力任せに取り除いた野バラの枝の向こうには、崩れかかった白壁に突き刺さるようにして、子ども用の傘が開いている。
骨は錆びて赤くなり、鮮やかだったであろう黄色の布は、埃と枯れ草ですっかり茶色く変色していた。穴だら