小説・エッセイ

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日比谷の書店員のリアルな日常、街の情景、本の話――〔マダムと黒猫〕 新井見枝香

※当記事はエッセイ連載「日比谷で本を売っている。」の第22回です。第1回から読む方はこちらです。  旅先の温泉街で喫茶店に入った。急勾配な坂の途中にあり、ともすれば看板に気付かず通り過ぎてしまう、ひっそりとした佇まいだ。趣味の合う知人の勧めがなければ、薄暗い地下へ降りるのを躊躇ったかもしれない。背筋の伸びたマダムにコーヒーを注文し、サンドイッチを待つ。ひとり客の私は、マダムとのちょっとした世間話が嬉しく、聞かれたことに答えたり、常連客を交えた話題に口を挟んだりした。本当は、

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