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小説・エッセイ

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人気・実力を兼ね備えた執筆陣によるバラエティー豊かな作品や、著者インタビュー、近刊情報などを掲載。
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2022年8月の記事一覧

モノにはモノ語りがあり、かんたんには捨てられない――「マイナーノートで」#17〔捨てられない理由〕上野千鶴子

各方面で活躍する社会学者の上野千鶴子さんが、「考えたこと」だけでなく、「感じたこと」も綴る連載随筆。精緻な言葉選びと襞のある心象が織りなす文章は、あなたの内面を静かに波立たせます。 ※#01から読む方はこちらです。 捨てられない理由 衣替えの季節が来ると、あふれるほどにクローゼットを占める衣類を見て、ため息をつく。  断捨離しようか。片付けのススメには、1シーズン袖を通さなかったものは捨てなさい、とか、1着買ったら1着処分しなさい、とか書いてある。  だが服にはどれも思い

一年分の汚れを落とす――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月はこの猛暑の中、おうちで涼むための悪戦苦闘をお送りします。 ※当記事は連載の第17回です。最初から読む方はこちらです。 # 17 ビニールプール 三度目の自粛の夏、ただいま猛暑のまっただなかである。実はこの一年間、ずっと心の片隅にひっかかっていた事案がある。  綺麗好きな方はここで読むのをやめていただきたいのだが、去年の夏に使いまくったビニールプール、私はな

任務と私情の狭間で揺れる気持ち。その先にあるもの――中山七里「彷徨う者たち」

本格的な社会派ヒューマンミステリー『護られなかった者たちへ』『境界線』に続く、「宮城県警シリーズ」第3弾。震災復興に向けて公営住宅への移転が進む仮設住宅で発生した、殺人事件。森見貢を任意同行し、容疑者と友との狭間で揺れながら取り調べる蓮田刑事。しかし交渉術に長ける貢を追い詰めきれない蓮田のもとへ、幼馴染みの大原知歌が訪ねてくる――。 ※当記事は連載第19回です。第1回から読む方はこちらです。 3  何故、この局面で知歌が現れるのか。  予想外の展開にまごつく間もなく、蓮田

記憶のなかにある、あの日の空、あの日の雲――「熊本かわりばんこ」#17〔空を見上げる〕吉本由美

 長年過ごした東京を離れ故郷・熊本に暮らしの場を移した吉本由美さんと、熊本市内で書店&雑貨カフェを営む田尻久子さん。  本と映画、そして猫が大好きなふたりが、熊本暮らしの手ざわりを「かわりばんこ」に綴ります。 ※#01から読む方はこちらです。 空を見上げる 今はまだ7月の終わりでこれからが夏本番となるのだけれど、私は早くも夏疲れと言おうか、疲弊している。庭の草たちがすでに取りつく島もないほどに繁り、毎朝毎夕、私の心とお財布を締めつけてくるのだ。庭を見ては毎日ため息をついてい

唯一無二の文人・町田康、はじめての「自分語り」! 自身の創作の原点とは。

 独特な文体・語法と奇想天外な物語で幅広い読者を有し、多数のヒット作を発表してきた作家・町田康。一度読んだらやみつきになる、あの唯一無二の文学世界は、いかにして生まれ、進化してきたのか。町田ファンならずとも、文芸ファンなら誰もが気になる謎について、作家自らが内面を「暴露」した注目の一冊、『私の文学史~なぜ俺はこんな人間になったのか?』。  人生初の試みという「自分語り」。幼少期から還暦を迎えた現在まで、好きだった本や作家、自身の作品解説といった文学世界はもちろん、影響を受け

友を思うがため、真実を導きだすため、情けを捨てて向き合う――中山七里「彷徨う者たち」

本格的な社会派ヒューマンミステリー『護られなかった者たちへ』『境界線』に続く、「宮城県警シリーズ」第3弾。震災復興に向けて公営住宅への移転が進む仮設住宅で発生した、殺人事件。貢の妻であり、蓮田刑事にとっても幼馴染の沙羅から聞かされた夫と父への思い。蓮田は任意同行した貢と一騎打ちの取り調べに臨む――。 ※当記事は連載第18回です。第1回から読む方はこちらです。 2  石動に直訴した通り、貢への聴取は蓮田主動で行われた。普段は尋問役の笘篠が、今回は記録係に回っている。  対峙

ドアを開けると、そこには……? 「ちょっとだけ不思議体験……理屈では説明できないある出来事」――お題を通して“壇蜜的こころ”を明かす「蜜月壇話」

タレント、女優、エッセイストなど多彩な活躍を続ける壇蜜さん。ふだんラジオのパーソナリティとしてリスナーからのお便りを紹介している壇蜜さんが、今度はリスナーの立場から、ふられたテーマをもとに自身の経験やいま思っていることなどを語った連載です。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #04 ちょっとだけ不思議体験……理屈では説明できない「ある出来事」 ご遺体と向き合うために数年勉強し、修復の実習もする研修、そしてまた研修の日々を経て、就職はできなかったものの、運よく法医学の