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主演・小栗旬(北条義時役)×山本耕史(三浦義村役)対談――『大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』

 2022年放送の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、その主人公は、平安時代末期から鎌倉時代に生きた伊豆の豪族の次男坊・北条義時です。権力闘争の末に鎌倉幕府の最高権力者へとのぼりつめる義時とその周りの人々が織りなす物語を、脚本家・三谷幸喜氏が生き生きと描いていきます。
 当記事では、10月7日に発売した『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』より、主演・北条義時役の小栗旬さんと、三浦義村役の山本耕史さん、の対談を掲載。それぞれの思いと、ドラマの今後の展開について、語っていただきました。


お互いに信用しながら油断はしていないふたり

小栗 ドラマの終盤にかけて、義時が気軽に話せる相手は、もはや義村くらいしかいなくなっている気がします。
山本 義村はドラマの当初から何も変わっていないと思うんです。常に欲得ずくで動いていて、その姿勢は一貫している。
小栗 義時はそれを承知で、「あいつならなんとかしてくれる」と読んでいるんでしょうね。
山本 義村は、義時がそう読んでいることを、読んでいる。
小栗 お互いに信用しながら油断はしていないという……。
山本 そうそう。
小栗 義村は見た目も全然変わらないですよね。
山本 そのほうが義村らしい気がしていて、芝居も含めて変えていません。でも義時は、如実に変わってきている。象徴的だったのは、義時が「畠山重忠の乱」の罪を稲毛重成に着せてその首を義村にはねさせ、「ご苦労だった。下がっていい」と言うシーン。台本のト書きに、義村がニヤリと笑うとあって、僕は「義時は変わった。引き返せないところまで来た」という意味のニヤリだと解釈しました。
小栗 義時の本質的な部分は変わっていないけれど、頼朝がいたときは自分がしなくてよかった決断をしなくちゃならない瞬間が増えていて、その結果としての変化だと思うんです。だんだんと家族すら近寄らせない心の柵を築き始めている感じがします。でも義村は、柵の中に入れる人なんですよ。
山本 これは僕自身の経験ですが、ある集団の仲よし組が何かのきっかけでもめて、集団全体が険悪になったとき、仲よし組とは距離を置いていた人間が、全体の唯一の安心材料になるってことがありますよね。義村はそういう存在なんじゃないかな。
小栗 確かに。距離感が絶妙だから、義時は義村に言いたいことが言えるのかもしれない。

演じるというより役を生きている

小栗「畠山重忠の乱」の収録は、心身ともにヘトヘトになりました。義時が最前線で戦うシーンは恐らく最後になると思い、監督やアクションチームに、「重忠との一騎打ちは、まさに命懸けの肉弾戦にしたらどうでしょう」と相談させてもらって。
山本 視聴者は心が揺さぶられたと思う。このときに義村がなぜ周囲に「手を出すな」と言ったのかについても話しましたね。
小栗 そうそう。武将どうしの正々堂々とした戦いを邪魔するなという意味だろうかと。
山本 あるいは、義時が殺された場合のことを探り始めたのか……。僕は、義村ならその可能性もある気がしています。
小栗 義時は殺されなかったものの、しっかり負けました。武勇の誉れ高い重忠に勝てるはずがないんですよね。いろいろな意味を含んだ戦いでしたが、いいシーンになったと思います。
山本 共演者と長い時間をともにしてきた分だけ感慨がありますよね。大河ドラマの現場は、思いもよらない感情に突き動かされる奇跡が何度も起こる。
小栗 うんうん。
山本 皆が役を演じるというより役を生きている。だから僕は歴史番組などで鎌倉時代が取り上げられてると、「へ~、そういう解釈なんだ」と、義村本人の気分で上から見ちゃう(笑)。
小栗 あはは(笑)。僕も役を生きる時間を積み重ねてきたからこそ、自分の中にたまってきているものがいっぱいあります。
山本 義時は、父・北条時政とも対決しますからね。
小栗 そもそも重忠が死ななきゃならなかったのは、完全に時政のせい。だから義時は頭にくるんだけど、父親を敵に回すのはやはりしんどかったはず。かといって身内に甘いと御家人たちに示しがつかないし……。
山本 義時は、長いこと頼朝に振り回されてきた。そのときと今と、どっちがしんどい?
小栗 今のほうが断然しんどいです。自分の決断で人を陥れていくわけですから。ただ、欲望に忠実な御家人が多い中で、義時は「鎌倉をよくする」という一心だった。エポックメイキングな政策をちゃんと考えられる人だけに、「ほかの連中はなぜ分かってくれない」という思いが強い。だから中盤以降の義時は、ずっとイライラしているんですよ。そんな義時を義村は何かと助けてくれて、時政失脚後の会議の席でも一役買いますね。
山本 「政を取りしきる」と言う義時を問い詰めつつも、義時ほどの適任者はいないという流れをつくっていく。でもこのときの義村は、義時を一切見ない。以前なら「うまく収めたぜ」「感謝!」というニュアンスの目線を交わしたと思うんですよ。
小栗 そうですね。
山本 義村が義時なり視聴者なりを欺いているのかもしれない。そうとも取れるシーンでした。
小栗 義村はとにかく世渡り上手。必ず勝ち馬に乗っているし。
山本 どこかで「隙あらば」と思っていて、隙が見つからなければパッと引ける男なんですよ。
小栗 耕史さんが義村の人生を生きているのを見ていると、楽しそうで自由な感じがする。役柄もあるけれど、耕史さんがそういうチョイスをしているんだろうな。耕史さんとは舞台などでもご一緒しましたが、ものすごく器用だし、芝居に誠実で、演技の選択肢をたくさん準備してくる。筋トレしながら案を考えているんだろうなぁって思います(笑)。
山本 そうかな(笑)。
小栗 あと、「その小道具、手元でクルンと回す必要あった?」というような演技をよく芝居に入れてきますよね。そこも好き(笑)。
山本 役にもよりますが、僕は舞台でもドラマでも、天井から小道具から見回して、使えそうな物はないかとまず考える。そうして視野を広げておくと、芝居の的が絞れたりするので。

頼朝の死を境に義時は大きく変わった

山本 今回の旬君を見ていて僕が思うのは、よけいな小細工をしない、ストレートに感情を届ける芝居から始まったのが、頼朝の死の回を境に、目つきも発声もたたずまいも大きく変えていく。芝居の重心が落ちていった。この意味分かりますよね。
小栗 分かります。
山本 座り姿だけでも、見ればいつの頃の義時かすぐ分かる。最初は旬君から「こう演じる」という〝圧〟を感じることがなかった分、変化が楽しいんです。変わり方がえげつないから。
小栗 ふふふ(笑)。何しろこれまでの回で多くの御家人の死を見てきましたからね。義時は今後、御家人たちから慕われている和田義盛ともぶつかる。このときの義時と義村は、ほんとに悪いんですよね。
山本 悪い(苦笑)。視聴者全員が「義盛がかわいそう」となると思う。義盛役の横田栄司さんは得するだろうなぁ(笑)。
小栗 絶対そう思う(笑)。
山本 生命保険か何かのCM依頼が来るかもしれない(笑)。
小栗 うんうん(笑)。
山本 一方の旬君は、主人公なのにヒール的な立場。旬君にいつか聞いたことがありましたね。義時のような役は大変でしょうって。そしたら「僕(の芝居)はずっと受けなんで……」って。
小栗 義時のキャラクターがそうですからね。
山本 人に振り回されてストレスをためることが義時の人生なのかも。それってすごい武器ですよ。ラスト話くらいで一気に発散されそうな予感がする。
小栗 そうですね。最終回に向けては、義時がためてきたもの、初回から積み重ねてきたものを一気に放出していく展開になるような気がしています。源実朝の暗殺の首謀者などについてもいろんな説があるので……。
山本 義時説もあるし、義村説もありますよね。
小栗 そうそう。そのあとには後鳥羽上皇と戦う「承久の乱」があるし、三谷幸喜さんがどう描いていくのか楽しみです。
山本 ストレスの多い義時役を早く終えたいと思うことは?
小栗 ないです。やっぱり楽しいし、支えてくれるスタッフのおかげもあります。本当に感謝しています。
山本 美術さんならセットの作り込みで、照明さんなら光の当て方で芝居をしている。ほかのスタッフもそれぞれの役割で芝居をしている。その意味ではスタッフ全員が共演者だと思っています。最後まで力を合わせて無事にゴールしたいですね。
小栗 うまいこと言いましたね。
山本 義村っぽいでしょ?
小栗 それ、僕が言ったことにしてください。
小栗・山本 ははは(笑)。

プロフィール
小栗 旬(おぐり・しゅん)

1982年生まれ、東京都出身。子役として活動を始め、95年、大河ドラマ「八代将軍吉宗」に出演。以降、ドラマ・映画・舞台で幅広く活躍。主な出演作に、ドラマ「ごくせん」、「花より男子」シリーズ、「BORDER」「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」「日本沈没-希望のひと-」、映画「クローズZERO」シリーズ、「銀魂」シリーズ、「罪の声」など。NHKでは、「さよなら、アルマ〜赤紙をもらった犬〜」などに出演。大河ドラマは「葵 徳川三代」「義経」「天地人」「西郷どん」などに出演し、本作で8作目となる。

山本耕史(やまもと・こうじ)
1976年生まれ、東京都出身。主な出演作に、ドラマ「華麗なる一族」「きのう何食べた?」シリーズ、映画「映画刀剣乱舞 継承」「シン・ウルトラマン」など。NHKでは、「新選組!! 土方歳三最期の一日」、「陽炎の辻~居眠り磐音江戸双紙~」シリーズ、「薄桜記」「植木等とのぼせもん」「剣樹抄〜光圀公と俺~」など。大河ドラマは「新選組!」「平清盛」「真田丸」などに出演。

取材・文=髙橋和子 撮影=山田大輔

小栗さん:ヘア&メイク=みち子(SUNVALLEY) スタイリング=臼井崇(THYMON Inc.)
衣裳協力=ブリオーニ クライアントサービス(問い合わせ先 TEL0120-200-185)
山本さん:ヘア&メイク=PARADISO/西岡和彦 スタイリング=岡野友美

*「鎌倉殿の13人」ドラマ・ガイド編集部Twitterはこちら

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