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【カレー作りの基本がまるわかり】水野仁輔『カレーの教科書』特別レッスン

市販のルーを使わず、スパイスで作るカレーを自宅で楽しむ人が増えてきています。そんな愛好家の必読書とも言えるのが、水野仁輔さんの『カレーの教科書』。スパイスカレーの基本の考え方を押さえながら、自分の味を作っていけるのが魅力です。
「同じレシピを使っても、目指すカレーが違えば味も変わってくるんですよ」と、水野さん。本書刊行10周年&増刷を記念し、『カレーの教科書』の基本のレシピをもとにした水野さんの特別レッスンをお届けします。当社カレー愛好家代表と水野さんとでカレーを作り比べることで見えてくる、カレー作りの基本とは。



作るひと

左:石井、右:水野仁輔

カレー愛好家代表 石井翔太郎(NHK出版セールス・プロモーション部販売推進グループ)
中・高生のころから大の料理好き。カレーはスパイスを専門店で買い集め、一から作るという本格志向。「昔どこかで見たレシピをベースにして、今は自分で好きなようにアレンジしています。水野さんのカレーとどう違ってくるのか……楽しみです!」

●カレーの人 水野仁輔
カレー研究家。「AIR SPICE」代表、「カレーの学校」主宰。出張料理集団「東京カリ~番長」の結成(1999年)をはじめ、さまざまな実験や考察を加えながら、新しいカレーの世界を開拓。カレーに関する著書を多数執筆。
「『カレーの教科書』、刊行してもう10年たつんですね。基本のレシピを久しぶりに見直しましたけど、正直新鮮でした(笑)」

今回作るのは、こちら! 「基本のゴールデンルールチキンカレー」

【材料 6~7人分】
鶏もも肉  500g
玉ネギ   大1個(250g)
トマト   大1個(250g)
ニンニク  2かけ(20g)
ショウガ  2かけ(20g)
香菜    1/2カップ
紅花油   大さじ3
ホールスパイス   ★クミンシード 小さじ1
パウダースパイス  ☆ターメリック 小さじ1/2
          ☆レッドチリ 小さじ1/2
          ☆コリアンダー 小さじ2
塩 小さじ1
湯 300ml     
※そのほか、塩・コショウを適宜

【下準備】
玉ネギ、トマト    ⇒ 粗みじん切りにする。
ニンニク、ショウガ  ⇒ すりおろす。
鶏もも肉       ⇒ ひと口大に切り、塩・コショウをふる。
香菜         ⇒ ザク切りにする。

【作り方】
『カレーの教科書』掲載、「ゴールデンルール」(7つのステップ)
① 鍋に紅花油を中火で熱し、クミンシードを入れて香りが立つまで炒める。
② 玉ネギを加えてキツネ色になるまで炒める。ニンニク、ショウガを加えて炒める。
③ トマトを加えて水分を飛ばすように炒める。
④ 火を弱め、パウダースパイスと塩を混ぜ合わせて炒める。
⑤ 分量の湯を注いで煮立てる。
⑥ 鶏肉を加えて中火で10分ほど煮る。
⑦ 香菜を混ぜ合わせる。

調理開始!

先攻:愛好家代表、石井翔太郎

※材料のみレシピの分量通り、作り方は「ゴールデンルール」を見ずに、普段通りに作ってもらいました。

材料の下ごしらえ

愛用のみじん切り器(手動チョッパー)で、さっそく玉ネギとニンニク、ショウガを刻み始める。

チョッパーは100均の300円コーナーで購入。「けっこう重宝してます」(石井)

★Mizuno’s Eye★ じつは味の決め手になる! 玉ネギの切り方

編集部A(以下、編A) わあ、そのチョッパー、ほんっとに紐を引くだけなんですか。
水野 このタイプ、実物を見るの初めてなんだよね!(とテンション高め)
石井 玉ネギ、ぼくは結構「細かくしちゃう派」なんで、20回くらい(紐を)引きます。
水野 へえ、20回だとこんなに細かくなるのか。(と、玉ねぎの状態をチェック) ぼく、最近は、玉ネギはくし形に切ることが多いんですよ。でも『教科書』の基本のレシピでは「粗みじん」になっているから、今日は粗みじんにします。
 あとでお話ししますけど、玉ネギの切り方って、じつはカレーの風味や味を決める大きなポイントなんですよね。
石井 え、そうなんですか?! 知らなかった! もうめいっぱい刻んじゃいましたよ。
水野 もちろん刻んでもいいから。安心して(笑)。
石井 はい、でも……気になる!
後半、水野さんの調理のときに秘密が明かされます!

クミンシードを油で熱する

今回、鍋は水野さんプロデュースによる「カレーの鍋NEO」を使用。使い心地抜群。

石井 ふだんはもっと油をたっぷり入れますけど、今日はレシピどおりに大さじ3。中火でシードがふつふつしてくるくらいまで熱しますが、あんまり時間は計ったりしないです。シードの状態とか匂いで判断しちゃう。
 そのへんはもう感覚的かな。だいたい飲みながら作ってるんで、いい加減です。
水野 そういうときは何を飲むの?
石井 ビールが多いですね。ビール党じゃないんですけど、料理するときはなぜかビールなんです。
水野 ちょっとわかる気がするなぁ。

クミンの香りが立ってきたところで、玉ネギを投入

編A おお! ジュッと蒸気が上がりましたね。いい匂い…
石井 ここは強火で炒めます。あんまり混ぜないようにしています。この玉ネギの色を何色にするかで、カレーの色も変わってきますよね。
 いつも気分で変えてるんだけど…今日は濃いめにしようかな。水分が飛ぶまでゆっくりじっくりいきます。

★Mizuno’s Eye★カレーづくりにはサイエンス的な面白さがある

水野 石井さん、かなり手慣れているよね。料理はよくするの?
石井 カレーに限らずですが、「一から作ってみる」みたいなのがすごく好きなんですよ。ラーメンも麺から作っちゃう。上司と料理対決なんかもよくしてます。
水野 へえ、すごいな。最近はそういう人(料理男子)が増えてるのかな?
編A 20代の男子って、一度はカレー作りを極めたくなっちゃうみたいです。
水野 わ、今でもそうなんだ…(とうれしそう)
石井 カレーって特に、実験しているみたいなところがいいですよね。これとこれを混ぜたときのリターンがどうなるのか、結果が味に反映されてくる。そこがすごく面白いです。正直、日常料理なんかは苦手だったりして。
水野 実験色、少なくなるもんね(笑)。でもまさにそう。カレーづくりってサイエンスなんだよね。同じ食材を使っていても、切り方や材料を入れる順番、火の入れ方で味に変化が出てくる。
 そこが面白いわけだけど、石井さん、そのあたりもよくわかってる感じがするな。

炒めること15分…キツネ色からタヌキ色くらいになってきた

トマトを入れて炒めたあと、パウダースパイス投入。「カレーのもと」が完成!

トマトもチョッパーで。「紐は5回」と、粗く刻む感じ。

★Mizuno’s Eye★スパイスの量は基本プラスお好みで

水野 トマトは玉ネギより粗く刻んでいるところがいいね。
石井 ありがとうございます。スパイスですけど、レシピではコリアンダーがわりと少なめですよね。ちょっと驚きました。
水野 うん、ぼくも驚いた(笑)。10年前はこれで作ってたんだね。今ならこの分量の倍は入れる。
石井 はい、ぼくも結構入れてます。
水野 そのへんって、年々作っていくうえでアップデートされてきている感覚はあるかな。
石井 やっぱり、作り方とかどんどん変わっていってるんですか。
水野 そう。新しい発見とかあるじゃない。こうするともっとおいしくなるぞ、みたいな。どんどん進化していってますよ。

鶏肉を加えてから、湯を入れて煮込む

石井 レシピではお湯だけど、家で作るときは水を入れちゃいます。鍋の中の温度が下がるから、水は分けて入れるようにしてます。沸騰してきたら蓋をして、あとは煮込むだけ。調理終了です!
水野 おつかれさまでした!

後攻:カレーの人、水野さん

水野 さて、どうやって作ろうかな。石井さんのカレー、すごくよくできてるからなぁ。
石井 ありがとうございます! ぼくの鍋、このまま煮込んじゃってていいですか? レシピでは「10分」ってありましたけど……
水野 いいんじゃない? そのほうが味に差が出て、面白いかもしれない。石井さんのカレーとは少しコンセプトを変えて作ってみることにします。同じレシピでも、かなり仕上がりが変わってくると思いますよ。(と、白いTシャツのままキッチンに立つ水野さん)
 料理を作るときはいつも白いTシャツですね。ほぼ100パーセントいつも何か飛んでいます。それでいい(笑)。エプロンは不要。いや、すべての服がエプロンです
編A わ、名言です!
水野 おかげで普段の服も、たいがい何か染みてます(笑)。

今明かされる、玉ネギ切りの謎…!

水野 玉ネギは、さっきも言ったとおりレシピどおり粗みじんにしましょう。5ミリから1センチ弱。玉ネギの横には水平に刃を入れないでいきます。

★Mizuno’s Eye★玉ネギの「旨み」「甘み」を生かしたいなら、包丁はできるだけ入れない

編A さっきからみんな聞きたくてうずうずしていたんですが……玉ネギの切り方ってそんなに大事なんですか?
水野 そうなんです。長年いろいろ作ってきてわかったのは、「玉ネギは、包丁を入れる数が少なければ少ないほど、玉ネギ自体の甘みや旨みがよく出る」っていうこと。お店によっては全然切らずに丸ごと使っているところもあるくらいです。
石井 それは知らなかった……!
水野 さっき石井さんがチョッパーで刻んでいたとき、玉ネギから水分が出ていってたでしょ? 刻んでいるうちに食材がつぶれてああいうふうになるんだけど、そうすると玉ネギの甘みや旨みが出にくくなるんです。
 同じみじんでも包丁で粗めに切ると、比較的水分は逃げていきにくい。くし形ならもっと保てるし、丸ごとならさらに、ですよね。

★Mizuno’s Eye★玉ネギをスパイス的に楽しみたいなら、刻む・すり下ろす

水野 でもインドでは、北に行けば玉ネギはみじん切りにしているし、南でもスライスしていますよね。なぜそうやって細かく切るかというと、彼らにとって玉ネギはニンニクやショウガと同じく、「香味野菜」という位置づけなんです。つまり、玉ネギの香りとか、多めの油で炒めたときの香ばしさが欲しくて、スパイス的に使っている。甘みとか旨みは、あまり求めてない。だから、「日本の玉ネギは甘すぎるから使いたくない」って言うインド人も多いんですよ。
編A え? あの甘みがいいんじゃないですか~!
水野 そうだよね、ぼくらはあの甘さが欲しくて炒めてる。玉ネギを炒めることの意味が、インドと日本とでは違うってことです。
石井 それ、面白いです。玉ネギの切り方でどれだけ味が変わるか、いろいろ試してみたくなる。
水野 でしょ? 料理って習慣的に作って楽しんでいると「カルチャー」だけどさ、そのプロセスをひとつひとつ「なぜそうするのか」って突き詰めていくと「サイエンス」なんだよ、やっぱり。

クミンシードを油で熱したら、玉ネギはこんがり炒める

水野 玉ネギを炒めているときは、基本的にあまり触らない。石井さんもそうだったよね。もちろんよく混ぜて炒める方法もあるんだけど、鍋の中で玉ネギがつぶれて水分が出ちゃうでしょ。今回はあまり水分を出さずに表面をこんがりさせたい。「メイラード反応」って言うんですが、そうやって香ばしさや旨みを出していきます。

★Mizuno’s Eye★すりおろしたニンニク、ショウガはまだ入れない!

編A あ、すりおろしたニンニクとショウガは、玉ネギと一緒には入れないんですね。下ごしらえのしかたも玉ネギと違ってます。そういえば石井さんは玉ネギと一緒にみじん切りにしていたような…
水野 石井さんのように全部みじん切りにした場合は、一緒に入れていいんです。食材の形状によって、入れるタイミングが変わるから
石井 このニンニク、ショウガはすりおろしているから、あと回しってことですか?
水野 そう。火が通りにくいものから入れていくというのが料理の基本だからね。
編A 食材の形状で入れるタイミングを変えるなんて、あまり意識したことなかった……。
水野 スパイスも同じ。ホールスパイス(クミンシード)は先に入れたけど、パウダーはこれから入れるでしょ。
編A ほんとだ。目からウロコです! ちなみにこの「基本のゴールデンルール」でニンニク、ショウガをすりおろしにしたのはなぜですか?
水野 それはね……来年刊行する本を読んでもらおうかな(笑)。ぼくが前から言っている「システムカレー学」について、いま整理し直して書いてるところなんだけれど……。
編A わ、もしかしてここ、大事なところなんですね! 気になる~っ!
水野 玉ネギを炒めているあいだ、少し説明しましょうか(笑)。

★Mizuno’s Eye★食材の大きさや入れる順番、鍋でのつぶし方でカレーが変わる

水野 カレーに加える材料は、鍋の中でつぶれていればつぶれているほど、強く風味が出て、全体に馴染みやすいんです。反対に、形が残っていればいるほど、風味は柔らかく出て、全体に溶け込んだり馴染んだりしにくい。それはなんとなくイメージできるよね?
編A はい。
水野 よく聞かれるんだけど、ぼくのレシピにはクミンシードとクミンパウダーを使うものがある。どうやって使い分けているかっていうと、クミンを柔らかく香らせたかったらシードを多めにするし、クミンを強くしたかったらパウダーを多めにする。
 パウダーにすると、入れてざっと混ぜたら全体に馴染むでしょ。シードは、部分的に点在しているから、この部分を食べたときと、こっちを食べたときとでは、シードの香り方が変わる。その「不均質さ」をあえて出したいときはシードにしているんです。風味だけじゃなく、カレーの色やとろみにも関係してきます。シードを多く使えば色が明るく出るし、パウダーだったら色が濃く出る。
 ニンニク、ショウガもそう。すりおろすと色が濃くなるし、粗みじんにすると色が明るく出る。粗みじんにしても、さらっと炒めるんじゃなくて鍋の中でつぶしていったら、色は深くなります。「切り方」プラス「鍋の中でのつぶし方」なんですね。これは次に加えるトマトも同じです。

★Mizuno’s Eye★仕上がりまでのプロセスを自分で設計し、思いどおりのカレーをシステマティックに作る。それが「システムカレー学」

水野 簡単に言えば、鍋の中で食材をあまりつぶさずに行けばさっぱりしたカレーになるし、全部つぶしていくと濃厚になる。
 要は、自分がどういうカレーに仕上げたいのかということです。それによってどう切ってどうつぶすかを決める。自分で決められるんです。まったく同じ材料で同じレシピを使っても、切り方と加熱の方法を変えるだけで、まったく違った風味と色合いのカレーができたりする。
 『カレーの教科書』でも触れてはいますが、それについてもっと細かく整理して紹介したい、というのが、いま書いている「システムカレー学」のコンセプト。先にどういうカレーを作りたいのかゴール設定をして、そこに向かって調理をしましょうね、という考え方です。
編A 今日はこんな感じのカレーにしたいから、材料はこう切ろう、スパイスはこんなふうに使おう、って、自分で考えて決められるってことですか。可能性が広がって楽しそうです。
水野 そうだよね、同じ材料でチキンカレーが何種類もできちゃう
石井 すごい、システムカレー学!
水野 石井さんはすでにそういう発想を持ってるんじゃない? さっき「ほとんど自己流」って言ってたけど、ちゃんと仕上がりをイメージしながら作ってたもんね。ぼくも石井さんのカレーとは違うイメージで作ってるところです。

いよいよニンニク、ショウガを投入

玉ネギは全部がキツネ色にならなくてもOK。次に入れる食材の水分が色を深めてくれる。

石井 玉ネギは、結構まだ色にばらつきがあるんですね
水野 そう。キツネ色のところもあれば、イタチやウサギのところもある。ここで均質に色づけする必要はないんです。このあとで水分が入ると均質化するから。
 ニンニク、ショウガ、今のぼくのやり方だったら、水で溶いてジャッと入れたいところだな。このままだとちょっとダマになるから。水分が入ると全体に馴染んで均質化しやすいし、玉ネギのこんがりしたところが溶け出して色を深めてくれる。でもまあ、次に入れるトマトが同じ仕事をしてくれるので、水は入れないでおきましょうか。

★Mizuno’s Eye★ニンニク、ショウガの炒め加減はお好みで

水野 ニンニク、ショウガを炒めるのは「青臭い香りが飛ぶまで」ってよく言うけど、好みの問題です。ラーメン屋さんで生ニンニクしぼって食べる人は、あの青っぽい香りが欲しいでしょ。
 ちなみにインドのカレーは基本的に、ニンニク、ショウガともここで青っぽい匂いは飛ばしちゃう。レシピによっては、玉ネギの前にすりおろしのニンニク、ショウガを入れてジャッとやる。飛び散って大変だけどね(笑)。それくらい青っぽい匂いを飛ばしたい。
 これがネパール・カトマンズのカレーになると、ニンニク、ショウガは鶏肉や水などと同じタイミングで入れています。そうすると食べたとき、ひと口目から「ガーリック入ってるな!」っていう青っぽい味になる。カトマンズ風にしたいときは、試してみるといいですよ。

トマトを入れる

ざっくり切ったトマトも、鍋の中でつぶしていけば味は濃厚になる。「どういう味にしたいか、トマトの触感をどれだけ残したいかなどによって決めていきます」(水野さん)

水野 ホールトマト、カットトマト、トマトピューレなどを使うことも多いですが、じつは生のトマトがいちばん難しい。硬い状態のものを、自分のテクニックで鍋なかで加熱し、つぶして脱水していかないといけないんですから。ホールトマトやピューレなんかは加熱済みだし、入れると勝手に脱水していく。
 あと、トマトの時期や産地によっても味が違うので、買うときに旨いかどうか見極める必要がありますね。
編A わ、スーパーでふつうに買ってきちゃいました。一応、ぷりっとしたのを選びましたけど……。
水野 その判断を信じましょう(笑)。このトマトも、このタイミングでしっかりつぶせば全部ベースになります。鶏肉と同じときに入れたら、煮込んでいくうちに部分的に溶けていくけど、具としても楽しめる。トマトをベースにしたいのか、具として食べたいのか、自分のカレーをどう設計するかによって、入れるタイミングも変わってきますね。

★Mizuno’s Eye★水分を飛ばしてカレーロードを出現させよ

水野 ソースに話を戻すと、ここでトマトをつぶせばつぶすほど濃厚になる。つぶさずにおいておけば少しさっぱりする。それも好みです。いずれにせよポイントは、鍋の中に水分が出ていない状態にすること。トマトの形が残っていても、トマトの中の水分が鍋に出てきていなければOK。そうするとカレーロードができるわけです。
編A これが噂のカレーロードですか……初めて見た!
石井 トマトの形が見え隠れしていても、ソースはしっかりまとまってますね。

トマトの形は残っていても鍋の水分がなくなっているから「カレーロード」ができる。

パウダースパイスと塩を入れる

「カレーのもと」自家製カレールーの完成。鍋を傾けるとゆっくり落ちてくるくらいのまとまり感。

お湯を注ぐ

石井 あ、鶏肉を入れる前に水を入れちゃうんですか。オレさっき間違えたかも。
水野 そう、基本のゴールデンルール上では、メインの具材が肉でも野菜でも魚でも同じルールで進めたいということから、先にお湯を入れてカレーソースを作ってしまう。ソースが出来上がって煮立ってきたところに具を入れます。

★Mizuno’s Eye★鶏肉は表面を焼いて入れればさらに旨みが増す

水野 インドではだいたい生肉のまま入れるので、今回はそうしていますが、本当は隣にフライパンを用意して、表面を焼きたいところです。そのほうが断然おいしい。肉そのものの味は変わらなくても、肉の表面がメイラード反応によって旨みが増した状態になって、それがソースに溶け出すんです。肉が入ったら、強火にしてもう一度煮立てます。煮立ったら中火にして10分煮ます。

★Mizuno’s Eye★煮込めば煮込むほどソースは濃厚でおいしくなる。短く煮込めば肉に味わいが残る。

水野 煮込みの長さに関しては、仕上がりをどうしたいかによって変わるんだけど、簡単に言えば、煮込めば煮込むほど、ソースはおいしくなる。でも肉には旨みがなくなる。煮込みが短ければ短いほどソースはあっさりするけど、肉じたいに味が残っていて、「ああ、チキンカレーってこんなに肉がうまいのか!」ってなる。
石井 ぼくの鍋はかれこれ30分は煮込んでいるので、ソースは濃厚になってきてますね。
水野 だよね。だからぼくは「ソースのあっさりしたチキンカレー」っていうゴール設定にしました。煮る時間は、ゴールデンルールの基本どおり10分にします。

★Mizuno’s Eye★煮込むときに混ぜるか・混ぜないか?

水野 煮込み中に混ぜるか混ぜないかによっても、出来上がりの味が変わりますよ。
編A え、味ってそんなことでも変わっちゃうんですか?
水野 そう。ぼくはほぼ混ぜないんだけど、固形物が沈んでいって、鍋底に当たってつぶれていくんです。そうすると、ソースがさらっとしやすい。
 逆にずっと混ぜていると、固形物は浮遊した状態になっているから、鍋底に当たってつぶれない。で、ソースの中に固形物が残った状態に仕上がるわけです。そのあたりはやっぱり個人の好みですね。
編A 風味や食感って、ほんといろんな形で変えていけるんですね。これまで漫然とカレーを食べてましたけど、自分はどういう状態のカレーが好みなんだろうって改めて考えちゃいます。

★Mizuno’s Eye★ひとりひとりの好みをカスタマイズできる調理が理想

水野 カレーの好みって、本当に難しくてね。たとえばみじん切りの玉ネギがソースの中で存在感を出していると、食べたときに口に当たるでしょ? それが好きな人もいればそうでない人もいる。ぼくは正直、あまり口に当たらないほうが好みなんだけどね。
 ただ、ぼくがおいしいな、美しいなと思うカレーでも、必ずしもみんなが好きとは限らない。玉ネギの食感・風味ひとつとっても十人十色なんです。だからぼくがカレーの本を作るときは、「このレシピがベストだからこれを覚えてください」ってふうにはしたくない。だってみんな好みは違うはずだから。「あなたがこうしたい場合は、こう。こうしたいときは、こう。正解はたくさんあります。おいしくする手立ては全部出しますよ。あとは自分で探してください」っていうのがぼくのスタンスなんです。
編A システムカレー学の考え方、だんだんわかってきたような気がします…!

完成!

石井のカレー
水野さんのカレー

石井 量が全然違う。ぼくのはずっと煮込んでたから……。
水野 石井さんのはソースが濃厚ですね。重さを計ったら半分くらい違うんじゃないかな?

重さを検証

石井 550g  水野さん 976g 

石井 ほんとだ、半分くらい違いますね。
水野 本当いうと、総量850gくらいまで煮るのがぼくのベストかな。もうちょっと鍋なかでつぶして詰めて飛ばすくらいのほうが好みです。でも、今日は基本のレシピであっさり仕上げる形にしたからね。
編A 色合いといい、別のレシピのカレーみたいです。
水野 味もずいぶん違うはずですよ。

食べてみた!

石井のカレー
水野さんのカレー

まずは自分のカレーを試食

石井 いつも家で食べてる味です。
水野 ぼくのは、やっぱり基本の味がしますね(笑)。

相手のカレーを試食…

水野 うん、おいしい。
石井 おいしいです、全然味が違う! 肉もうまい!
編A へえ~~っ! 早く食べたい…
石井 終盤に入れていらしたパクチーも風味がいいですね。
水野 石井さんのカレーはやっぱり濃厚で、ソースに味がよく出ています。ぼくのほうは、ソースはあっさり作ってあるけど、鶏肉にしっかりとした旨みがある
石井 味も風味もこんなに変わるなんて。ほんと違うメニューみたいです。
 基本は同じプロセスだけど、切り方とか、煮込みの時間とか、若干のものの入れ方の差で、こんなに違いが出るなんて驚きました。
水野 今度は別のやり方も試してみると、きっと面白いよ。
石井 そうですね。玉ネギ、次はあまり刻まないようにしてみます(笑)。今日はありがとうございました!


写真 安彦幸枝
取材・構成 彌永由美

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