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「NHK出版新書を求めて」第3回 歴史のリアルを知るために――木下竜馬さん(歴史学者)の場合

各界で活躍する研究者や論者の方々はいま書店で、とくに「新書コーナー」の前で何を考え、どんな新書を選ぶのか? 毎回のゲストの方に書店の回り方、本の眺め方から現在の関心までをじっくりと伺う、NHK出版新書編集部の連載です。コーディネーターはライターの山本ぽてとさんです。
第1回から読む方はこちらです。


今回はこの人!
木下竜馬(きのした・りょうま)
1987年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所助教。専門は鎌倉幕府、中世法制史。共著に『鎌倉幕府と室町幕府 最新研究でわかった実像』(光文社新書)など。2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では時代考証を担当。

*   *   *

 2022年5月16日。東京・池袋はあいにくの雨であった。ジュンク堂書店池袋本店には、今日もまた本を求めて多くの人がやってくる。

 本企画「NHK出版新書を求めて」は、気鋭の研究者の方と本屋さんへ行き、新書の棚から実際に10冊の本を選んでもらう企画である。

 今回ご一緒させていただくのは木下竜馬さん。鎌倉時代を専門とする研究者であり、現在放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当している。木下さんは「正装(御成敗式目パーカー)」で待ち合わせ場所に現われた。インターネットで買ったのだという。気鋭の歴史学者はどのような新書を選ぶのであろうか。

――ジュンク堂書店池袋本店にはよく来ますか?

木下 そうですね。池袋にジュンク堂があるのが、東京に住んでいる一つの理由と言ってもいいかもしれません。心のよりどころです。

――心のよりどころですか(笑)。来た時はだいたいどの辺りを回られますか?

木下 まずは1階で売れ筋の本を確認したあと、4階で自分の専門である日本史や人文書を見ています。

――では4階に行ってみましょうか。

木下 まずエスカレーター前のコーナーでどんなフェアをやっているのかチェックします。それから日本史の棚へ。どん詰まりのところです。

 4階売場のさらに奥、「どん詰まりのところ」に日本史コーナーがある。

――日本史コーナーって本当に奥の方にあるんですね。来たことなかったな。

木下 ここの品揃えは本当にすごい。たとえば校倉(あぜくら)書房という、2018年になくなってしまった出版社の在庫がまだ置いてあります。

書店員 校倉書房の社長にはよくしていただいていたので、応援したいと思いまして。

木下 ああ、すばらしいですね。あっ、新井孝重さんの『東大寺領黒田荘の研究』(歴史科学叢書、校倉書房)がある。ネットで買おうとしたら、目ん玉が飛び出る値段になっているんじゃないですか。これが定価で売っているのは貴重です。

 ここは地方史の本棚も充実しています。さらに歴史雑誌のバックナンバーも揃っているし、事典類も史料集もある。図書館に行かなければ見られないものが一覧でき、しかも購入できるという。もちろん全部買うことは難しいんですけど、並んでいるのを見るだけでも安心感が得られるというわけです(笑)。

 私の職場である史料編纂所で作っている『大日本史料』も置いてありますね。いろんな古文書などを事件ごとに切り貼りした史料集です。100年以上経っても完成せず、あと数百年かかると言われている一大叢書です。ここにあるのは最新刊だけですが、置いてあること自体が稀です。

書店員 昔は本棚一本分のスペースを用意していたんですけど。資本主義の荒波に……。泣く泣くいろんなものを削りましたが、代表的な、これぞというものだけは置いています。

木下 いやいや、 『大日本史料』が置いてあること自体がすごいんですよ!  近くに『国史大系』も置いてありますね。『歴史文化ライブラリー』や『人物叢書』といった叢書も充実しています。

――大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は人気ですよね。中世史の本も盛り上がっているのでしょうか?

書店員 そうですね。ドラマの影響もあるのでしょうが、中世史はずっと盛り上がっている印象です。研究書に限れば中世史が一番多いでしょうね。

木下 じつは私も中世史だけ妙に本が多いなと思っていたんですよね(笑)。

――木下さんでもキャッチアップが難しいんですね。

木下 そうなんです。新刊情報はインターネットである程度チェックしているんですけど、書店にくると「あっ、こんな新刊が!」ということはよくあります。

 歴史の研究書を出す出版社は、小さかったり、地方にあったりする場合も多く、手に入れるのに最初のハードルがあります。研究者どうしで競い合ったりして。こんな本があったとか、あそこにこんな記述があったとか研究者同士で情報シェアしあう飲み会が、いちばん楽しいですね(笑)。

――いつもは行かないコーナーの話、新鮮でした。ここからは、さっそく新書を10冊選んでいただきましょう。新書はけっこう読まれますか?

木下 そうですね。自分の専門というより、全然違う分野の本を読むことが、新書では多いかもしれません。サプリメントのような感覚で読んでいますね。

――どの辺りから回りますか?

木下 最初は話題書の棚からいきましょう。時期的にウクライナ情勢の本が多く出ていますね。ウクライナやロシアについて勉強したいところなので、いま活躍中の小泉悠さんの『現代ロシアの軍事戦略』を選びたいと思います。

 ウクライナと言えば最近、松里公孝さんの『ポスト社会主義の政治――ポーランド、リトアニア、アルメニア、ウクライナ、モルドヴァの準大統領制』(ちくま新書)を読みましたが、こちらも面白かったですね。

 千葉雅也さんの『現代思想入門』(講談社現代新書)も売れていますよね。こちらは現代思想を自己啓発と結びつけてもいいんだと、発見がありました。そうそう、本の中で千葉さんが参照していて気になった、岩波新書の『ミシェル・フーコー』も選ぼうかな。あとずっと気になっていた石田勇治さんの『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)も買いたいです。

――次は中公新書の棚ですか。

木下 『サラ金の歴史』は、すごく評判がいいですよね。売れている本をただ買っているみたいでちょっと恥ずかしいんですが(笑)、まだ読んでいなかったのでこちらにします。

 あと、SDGs関連の新書も気になりますね。たくさん出ているので、どれか一冊を読みたいと思います。
 
――ぱっと見ただけでも中公新書からは『SDGs(持続可能な開発目標)』(蟹江憲史)、岩波新書からは『SDGs――危機の時代の羅針盤』(南博、稲場雅紀)、ちくま新書からは『SDGsがひらくビジネス新時代』がありますね。

木下 どれもよさそうですが、今回は『SDGsがひらくビジネス新時代』にしようかな。なぜSDGsという「正しさ」がいきなり広まったのかに興味があります。あと、ずっと気になっていた岩波新書の『民俗学入門』も買います。

――他の棚も見てみましょう。

木下 あ、スタジオジブリの鈴木敏夫さんは文春新書でも書いているんですね!  鈴木さんはほかのレーベルからも本を出していますが、ちょうどこの本と目が合ったということで(笑)。

『映画を早送りで観る人たち』も読みたいと思っていたので、チョイスしたいと思います。

――最後にNHK出版新書の棚ですね。

木下 『大河ドラマの黄金時代』、これは気になります!  もう一つは買おうと思っていた『史伝 北条政子』にします。あっという間に10冊になってしまいましたね。

◇木下竜馬の選ぶ10冊

・稲田豊史『映画を早送りで観る人たち――ファスト映画・ネタバレ―コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)
・鈴木敏夫『天才の思考――高畑勲と宮崎駿』(文春新書)
・小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)
・竹下隆一郎『SDGsがひらくビジネス新時代 』(ちくま新書)
・菊地暁『民俗学入門』(岩波新書)
・小島庸平『サラ金の歴史――消費者金融と日本社会』(中公新書)
・石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)
・慎改康之『ミシェル・フーコー――自己から脱け出すための哲学 』(岩波新書)
・山本みなみ『史伝 北条政子――鎌倉幕府を導いた尼将軍』(NHK出版新書)
・春日太一『大河ドラマの黄金時代』(NHK出版新書)

――それでは、選んだ理由について一つずつお聞きしたいと思います。まずは『映画を早送りで観る人たち』。

木下 私自身は大学で授業をしていないのですが、大学がオンデマンド授業の対応をとる中で、学生たちはけっこうそれを倍速で見ていると聞きます。確かに、一定の理はあるとは思うんですよね。そもそも私と同世代の友人にしても、ドラマを倍速で観ている人は多いんです。ここぞという回やシーンは、普通の速度で観ると言っていましたけど。

――木下さん自身は倍速で観ているんですか?

木下 私は普通に観ていますね。でもいつかは倍速で観るようになるかもしれません。昔の話を聞くかぎり、映画館ではみんな2本立てを飲食しながらダラダラ観ていたワケですよね。早回しできたら昭和のひともしてたのではないでしょうか。時代にあわせていろいろな見方が出てくるのだと思います。

――映画を倍速で観る若者はけしからん、ということでもないんですね。

木下 むしろ歴史を研究していると、物事というのは移り変わっていくもの、という考えが染みついているので、「いまは昔と比べて堕落してしまった……」という発想になりづらいのかもしれません。良い悪いというより、なぜいまこういうことが起こっているのかということのほうが興味深いですし、いま起こっていることもそれほど長くは続かないだろうと考えてしまう……。ニヒリズムですかね。

――次は鈴木敏夫『天才の思考』について教えてください。意外なチョイスでした。

木下 私、ジブリ作品がすごく好きなんですよ。日本史の学者をはじめて認識したのが『もののけ姫』(1997年)で、網野善彦さんがパンフレットに寄稿していたんです。当時は9歳でしたが、それから高校生になり「パンフレットで見た人だ」と、網野善彦『無縁・公界・楽』を手に取りました。私にとってジブリの影響は大きいなと感じています。

 それにしても、鈴木敏夫さんの語る、宮崎駿、高畑勲をはじめとした日本のアニメづくりのストーリーは面白すぎます。大変魅力的なんですが、過剰なものは少し疑ったほうがいい。きっとアニメ史の研究者たちは彼の言っていることをいずれ相対化して考えなければいけないんだろうなと思います。鈴木さんが広めたストーリーを、実証的なアニメ研究者たちが覆していく形になっていくんでしょうね。知らんけど(笑)。

――『現代ロシアの軍事戦略』はなぜ選びましたか?

木下 ただただウクライナ情勢に刺激されて、というのが理由です。まさかロシアがウクライナに本格的に侵攻するとは誰も思っていなかったのではないでしょうか。さらに言えば、ロシアの侵略を受け、ウクライナのゼレンスキー政権がこれほど持ちこたえるとも、誰も思っていなかったわけでしょう。これが歴史的なリアルだなと思いました。

 私の専門に引きつけて言えば、鎌倉幕府滅亡の時、同時代の人たちは「さすがに滅びないだろう」と思っていたはずです。「楠木正成鎮圧に手間取ってはいるけど、まあ大丈夫だろう」と。でもあれよあれよと滅びてしまった。歴史が、その時代の当事者からしたら予想外のほうに動いていくという感覚を、いまのウクライナ情勢でしみじみと感じています。

――次は『SDGsがひらくビジネス新時代』。数ある「SDGs」とタイトルのついた新書の中からこちらを選んだのはなぜですか?

木下 SDGsについては、なぜみんなこんなに急に従うようになったのだろう、ということに歴史学者的な興味があります。だから、SDGsの内容について客観的に解説するものより、立場がはっきりしていて主観的に語っている本を読みたいなと思いました。

 例えば、最終章は「SDGsが『腹落ち』するまでに」となっています。私も、じつは腹落ちしていないんですよね。10年後には誰も言ってない可能性もあるんじゃないかと思っています。でもなぜか、大きなトレンドになっていて、知りあいが通わせてる保育園では「SDGsカルタ」まで作られている。こうした社会の動きを、面白いなと思って見ています。

――『民俗学入門』は、オーソドックスなタイトルなので古い本なのかなと思ったら、2022年に発売されたものなんですね。

木下 最近気になっていた一冊です。書名からは、柳田が、折口が、宮本常一が……といったどちらかと言えば「民俗学史入門」を連想するのですが、この本では「きる」「たべる」「すむ」というように民俗そのものの入門になっているのが興味深いと思いました。そこが欲しくなった理由ですね。

 しかも、240ページちょいというボリュームがすごくいいです。私はぶ厚い新書がすごいとは全然思わないほうです。むしろコンパクトにまとまったもののほうが、新書としての価値を存分に発揮しているように思います。

――次は『サラ金の歴史』を選ばれていました。

木下 ちょっとアホみたいな言い方になりますが、「みんながいいって言ってた!」というのが正直な理由です(笑)。著者の小島庸平さんは『大恐慌期における日本農村社会の再編成』(ナカニシヤ出版)という専門書を書いている日本近代経済史の研究者で、農村の専門家というイメージがあり、サラ金というテーマは少し意外でした。

 でも目次を見ると、サラ金以前の高利貸しといった金融の歴史から始まっていて、タイトルは即物的ですが、経済史、ジェンダー史、感情史といった広い範囲をカバーしている。そこがとてもいいなと思いました。「サラ金」を切り口にして、歴史的なアプローチのすごさを知ることができる一冊なのではないかという気がします。読んでいないので、本当に気がするだけなんですが(笑)。

――そこがこの企画の難しいところですね(笑)。私は『サラ金の歴史』を読みましたが、最初はサラ金業者のエピソードの強烈さに笑ってしまうんですけど、だんだん笑えない展開になっていくんですよ……。

木下 それだけ聞くと、「鎌倉殿の13人」みたいじゃないですか(笑)。読むのがますます楽しみになりました。

――『ヒトラーとナチ・ドイツ』はなぜ選ばれましたか?

木下 ヒトラーやナチって、名前は知っていても、実体をよく知らないものの代表格ではないかと思うんです。よく「○○はヒトラーのようだ」というようなたとえを聞きますが、高校世界史レベル以上にきちんと知っている人はどれくらいいるでしょうか。そうした時に、何を読めばいいかとドイツ史の人たちに聞くと、みんな「石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』をとにかく読んで」と言います。じゃあ、読んでみよう! と選びました。

 誰かのおすすめという意味では、『ミシェル・フーコー』も千葉雅也さんが『現代思想入門』で「フーコーについて知りたければこの本」と書いていたので、素直な心で選びました。分野は違いますが、私自身、権力の在り方に関心をもって研究をしています。権力の装置とは何か、人が人を従わせる力とは何なんだ、ということを考えるうえで、フーコーの権力論はヒントになるだろうなと、この機会に選んでみました。

 例えば鎌倉時代の権力のあり方を考えたいとき、古文書の文字面だけをながめていてもわからないので、歴史学の外からヒントを得ようとすることはままあります。本当にちゃんとやろうとすればフーコーなりなんなりの原書や研究書を読まなければいけないんでしょうけど、そんなとき新書という窓口があるのは本当にありがたいと思います。

――NHK出版新書からは、『史伝 北条政子』と『大河ドラマの黄金時代』の2冊を選んでいましたね。

木下 『史伝 北条政子』は半ば研究者の義務感ですね(笑)。新書で北条政子をタイトルにした本は、はじめてではないでしょうか。政子が活躍した時期は、弟の義時とだいたい同じなんですが、史料上、義時の主体性はそんなに見えてこないんですよ。でも政子にはかなりの能動性がある。書きがいのあるテーマだと思います。やはり自分の専門の時代ですから、どの史料、どの挿入図版を使っているのか、などという見方をしてしまいますね(笑)。

『大河ドラマの黄金時代』は、大河ドラマがなぜこんなにも一大コンテンツになったのかが気になっていたので選びました。「鎌倉殿の13人」の第1回は、見逃し配信などを全部合わせると2000万もの人が視聴したようです。  2021年衆院選の比例区で自民党が取ったのが2000万票ぐらいですから、国を動かせる数といってもいい。そう考えると、なぜこんなにみんなが見ているんだろうなと、大河の時代考証にかかわっている身からも感じます。

 ちなみに、大河ドラマの一作目は1963年の『花の生涯』で、主人公は井伊直弼なんですが、ご存じでしたか?

――井伊直弼なんですか。意外です。戦国ものや忠臣蔵あたりだと思っていました。

木下 そうなんですよ。しかも当時は放送用テープが貴重だったので、一度放送した作品をアーカイブしておくという発想がなく、『花の生涯』の映像もほとんど残ってないそうです。こうした大河ドラマ自体の歴史も気になっているので、それを知る手がかりとして、ぜひこの本を読んでみたいと思っています。

――実際に木下さんは大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証をされていますが、具体的にどのような仕事なんでしょうか?

木下 時代考証者が家庭教師のように全部教えていると思っている人もいるみたいですが、少なくとも「鎌倉殿」ではそんなことはありません。プロデューサーも脚本家も、みなさん、本当に勉強されていると感じます。

 だから脚本が送られてきたら、「あっ、義経の離反までのプロセスは元木泰雄説で行くのね」と汲み取って、それならばここはこういうはこびになりますよという具合で指摘する。「この本とこの本は読んだけど、他の論文はないか?」 とか、「これは○○説と○○説どっちがいいか?」といった形で具体的に聞かれることもあるので、レファレンスのような仕事もしています。

 なおかつ、校閲のような役割もしています。「源範頼はその時、鎌倉にいません。まだ九州にいます」といった歴史的な事実関係を指摘する。あとは、「この時代にお茶は飲まないです」といったもの。ちょっと茶屋に行って、饅頭を食べて、銭を払う――といったシーンはダメなんです。当時はお茶も饅頭も銭もありませんから。饅頭ではなく餅だったらあり得ますよ、と提案するわけです。

 刀や鎧などの「サムライ」イメージからふつうに思い浮かべがちなのは、戦国時代や江戸時代の社会です。ですが鎌倉初期は、それとは相当違った社会でした。そこの違いを表そうということで、セリフでも「家臣」ではなく「家人(けにん)」、「女中」ではなく「侍女」「女房」にする、みたいなことをしています。また、当時は「村」が必須の社会単位ではなかったのでセリフの「村人」という語も変える。イエ制度を考えてみても、女性にも財産相続権がありますし、後家が強い時代でした。その時代の家族観とは、結婚観とは、ライフサイクルとは、どのようなものなのか……などということを踏まえて指摘する必要があります。

――最後に、これからどのような新書を読みたいと思っていますか。

木下 じつは、前々から誰かやって欲しいなと思っている企画があって……。

――ぜひぜひ教えてください!

木下 「交通戦争」についての本が読みたいんですよ。昭和30、40年代は、交通事故の死者数が非常に多く、社会問題になっていました。「先月の交通事故の犠牲者は日中戦争の○○作戦の死者と同じ人数です」というような表現が普通に使われていたといいます。まさに「交通戦争」であったと。

 初代の「ウルトラマン」には、メフィラス星人が子どもに「地球のように戦争も交通事故もない星が宇宙にはたくさんある」と地球を棄てるよう説得する話があります(「禁じられた言葉」)。それくらい子どもにとって交通事故による死が隣り合わせの時代であったようです。

 日本の高度経済成長期、モータリゼーションの負の側面として「交通戦争」はあったわけです。もちろん当時を生きたひとにとってはあらためて語るまでもない常識なのでしょうが、まだ歴史として編みなおされるまでは熟しておらず、世代がすこし違うと知られていないということになるのでしょう。近い過去こそ見落としやすい。そういうところを「歴史学する」のは大切だと思います。ですので、新書というメディアでぜひ読んでみたいテーマです。

(取材・構成:山本ぽてと/2022年5月16日、ジュンク堂書店池袋本店にて)

第4回へ続く
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プロフィール
山本ぽてと(やまもと・ぽてと)

1991年沖縄県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社シノドスに入社。退社後、フリーライターとして活動中。企画・構成に飯田泰之『経済学講義』(ちくま新書)など。

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