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直木賞作家・今村翔吾が8人の戦国武将をプロファイリング!

三英傑(信長、秀吉、家康)から、著作『じんかん』の主人公・松永久秀や『八本目の槍』の石田三成まで、直木賞作家・今村翔吾さんが、8人の英雄たちの素顔に迫った新書、『戦国武将を推理する』が発売されました。
武将たちは何を目指し、何に賭け、何に心動かされたのか――今村流推察で解き明かします。
今回は本書の刊行を記念し、「はじめに」を特別公開いたします。


はじめに

 私が歴史を好きになったのは何時いつからだろうか。小学校五年生の頃、古本屋の軒先に置かれていた『真田太平記』全巻を買って貰い、40日足らずで一気に読破したことは、さまざまなところで語っている。確かに歴史小説に没頭したのはそれが切っ掛けだと思うが、思えばそれより前に歴史は好きだったように思う。
 三歳の頃、大河ドラマの「独眼竜政宗」(87年)を食い入るように見ていたらしい。あまりに好きだったらしく、七五三で初めて羽織袴を身に付けたときは、政宗みたいだと大いにはしゃいでいたという。当の私も朧気おぼろげながら記憶がある。その年齢で筋を理解していたとは思えないが、特に印象に残っているシーンが三つあった。
 一つは漆黒の甲冑で身を固めた武士たちがこちらに向かって来るオープニングシーン。鵶軍あぐんなどとも呼称された伊達政宗の軍団だ。これが滅法めっぽう恰好良く思えたのを覚えている。
 二つ目はいかりや長介が演じた鬼庭左月おににわさげつが討ち死にするシーン。人取橋ひととりばしの戦いだと今ではわかるが、これも当時は「何か悪者と戦っている」といった程度だったと思う。何故、命をしてまで戦うのだろうと首を捻った。
 最後、三つ目はもっと意外なシーンだと思う。イッセー尾形演じる国分盛重こくぶんもりしげ出奔しゅっぽんする場面である。国分盛重は政宗の叔父おじである。それなのに政宗から離反するのだ。子どもの私は「家族なのに何で?」と、妙にに落ちなかったものだ。
 ここまで三歳の記憶をさかのぼってきたが、案外このあたりが私の歴史に興味を抱くようになった原点ではないかと思う。
 歴史に触れて疑問を抱く。そして、自分なりに推察する。専門書を読んで知識を得る。歴史小説好きになったのもその一環で、歴史小説家の自分のものとは異なる「推理」に触れている感覚だったのではないか。
 歴史上の人物とはいえ、当然感情はある。そのすべてが史料に残る訳ではない。さらにいえば、日記に書き残したとしても、それが本心だったのかさえわからない。自分に置き換えてみればよくわかるのではないか。誰も見ないとしても、果たして我々は本心ばかりを日記に書き残せるだろうかと。
 歴史学者の場合はそれでも史料にらねばならないが、作家はそれに比べて気楽なものだ。極論、本能寺の変で信長が死ななかったように描くことすらできてしまう。もっとも、突飛な話にし過ぎては、読者が興醒めしてしまうかもしれない。そのためには対象となる人物や時代を良く知らねば、こうではないかという想像すら思い浮かばないのだ。
 仮に物証はなくとも、行動パターン、過去の経歴、身体的特徴などさまざまなものから人物像の輪郭を限りなく明確にしていく。いわば、それは歴史上の人物のプロファイリングである。私は小説を書く過程において意識して、あるいは無意識でも必ずしている。
 そういった意味では、本書は創作しているときの私の頭の中を、余すところなく語り尽くし、文章に書き起こしたものといえるかもしれない。
 私はそう思わないという意見があっても良い。あなただけの人物プロファイルがあって良いのだ。そうしてまた歴史に対する興味を深くしていくものだと思う。
 今回、三英傑をはじめとして多くの人が知るところの戦国武将を取り上げたのは、論じがいがあり、推理する要素も多く、いろいろな見方や意見がありうると思うためだ。一つはっきりしているのは、彼らは間違いなく生きていた。我々と同じく、喜び、悲しみ、ときには怒りを持つこともある。そこに想いを馳せることで見えてくるものもあるはずである。

 2024年2月

今村翔吾


続きは『戦国武将を推理する』でお読みください。

今村翔吾(いまむら・しょうご)
作家。1984年、京都府生まれ。滋賀県在住。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て作家デビュー。2016年、第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞、18年、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞、同年、「童神」で第10回角川春樹小説賞を受賞(刊行時『童の神』と改題)。20年、『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞、第8回野村胡堂文学賞、『じんかん』で第11回山田風太郎賞、21年、「羽州ぼろ鳶組」シリーズで第6回吉川英治文庫賞、22年、『塞王の楯』で第166回直木三十五賞を受賞。その他の著書に「くらまし屋稼業」「イクサガミ」シリーズ、『茜唄』『蹴れ、彦五郎』『幸村を討て』『戦国武将伝 東日本編・西日本編』『教養としての歴史小説』など。

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