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ワクワクする進化の秘密が満載。科学好きな子どもにも、科学嫌いの大人にもおすすめの絵本『すごいぞ!進化』――刊行記念特別インタビュー

 地球上のいきものは、いまも進化をつづけている! 化石、恐竜、絶滅、遺伝子などを通して進化の謎や秘密をわかりやすく解説した科学絵本『すごいぞ!進化 はじめて学ぶ生命の旅』(文・アンナ・クレイボーン、絵・ウェスリー・ロビンズ)。刊行を記念して、日本語版監修者の郡司芽久さんと翻訳者の鹿田昌美さんが本書の魅力について語ります。
 *記事中のイメージはサンプルです。実際の本の色調とは異なります。

『すごいぞ!進化 はじめて学ぶ生命の旅』刊行記念特別インタビュー

郡司芽久さん(筑波大学システム情報系 研究員)
鹿田昌美さん(翻訳家)

聞き手=編集部

多様ないきものの特徴を通して学べる構成

――本書の原著(原題Amazing Evolution: The Journey of Life)を最初にご覧になったとき、どういう印象だったでしょうか?

郡司: まず、「絵がかわいいな」というのが最初の印象でした。本書のなかにはさまざまな動物が登場しますが、どれもきちんと特徴をとらえつつ、デフォルメされたかわいらしい絵で描かれています。かわいらしいけれど子どもっぽくなく、大人から見てもおしゃれだと感じる絵本だと思います。
 一方で、中身の濃さにもおどろかされました。“進化”という1つのテーマをここまで深く多面的に扱うのか、と。恐竜や人類について、DNAや細胞について、「進化論」を発表した科学者についてなど、あらゆる角度から進化について説明しています。地球に生命が誕生してから今のわたしたちにいたるまで、気の遠くなるほど長い進化の道筋について、丁寧に描いた作品です。
 いちばんびっくりしたのは、巻末に「用語集」があり、書籍のなかに登場する難しい言葉の解説が掲載されていることです。絵だけ見る、大きな文字だけを読む、小さな文字で書かれた注釈も合わせて読む、用語集までぜんぶ読む、と成長に応じて長く楽しめる本になっているんだなと感動しました。

鹿田: わたしもすばらしい本だと思いました。こんなにかわいらしくて、平易な言葉で書かれていながら、大切な情報がぎっしり詰まっていて、用語集や索引までついた絵本は、なかなかありません。子どもが年齢を重ねながら繰り返し読めるだけでなく、大人が読んでも楽しめる本だと思いました。本文の説明は端的でわかりやすいですし、絵は親しみやすくて美しいだけではなく、描写も正確です。見開きで1つのテーマがおさまっているので、どのページからでも読むことができるのもいいですね。

――進化や科学に興味のあるお子さんへのおすすめポイントはどのようなところでしょうか?

郡司: まず、さまざまな動物が登場するだけでなく、「進化」「種」「分類」などについてもきちんと説明されていて、いきものに詳しいお子さんでもとても楽しめるという点です。単に個々のいきものの特徴だけではなく、「いきものはどんな風に地球上にあらわれ、多様な姿かたちになってきたのか?」についても、多くのいきものの特徴を通じて学べる構成になっているのが素晴らしいと思います。

鹿田: ほんとうにそうですね。子ども向けの図鑑だと「古代生物」「恐竜」「人体」など、トピックごとに1冊ずつに分かれていることが多いので、もともと興味をもった内容の知識を深めるにはいいのですが、横のつながりや全体像のイメージにまで意識を広げることは、なかなか難しいものです。もっと早くこの絵本と出合いたかった、と思いました。息子が小さいときに読んであげたかったです。

郡司: 動物学者の視点からいうと、最新の知見をきちんと盛り込んでいることもポイントです。絶滅した生物の姿かたちや生態は、化石に残された断片的な情報から推測することになります。そのため、研究が進むことで、これまで考えられていた「生前の姿」が実は間違っていたことがわかる、ということもあります。
 たとえばカンブリア紀(約5億年前)の海に生息していた古代生物ハルキゲニアは、2015年に発表された研究によって、「これまでお尻だと思われていた部分が、実は頭だった」ことが明らかになりました。化石を詳細に観察したところ、お尻と思われていた部分に小さな目が見つかったのです。本書のハルキゲニアの絵は、この最新の研究で明らかになった姿で描かれています。

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鹿田: 絵の雰囲気が優しく、色使いが派手すぎないので、小さなお子さんの寝かしつけに読む本としてもおすすめです。ページを開いて、指差しをしながら名前を教えたり、「今日はこのテーマ」と決めて、読み聞かせをしたりもできます。気に入った絵があれば、お絵かきに使ってもいいですね。
 本書は専門用語も多いですが、子どもは大人にはうらやましいぐらい、むずかしい言葉もどんどんおぼえていきます。この本を入口にして、とくに興味を持ったテーマの図鑑や本へと知識を深めていくこともできますし、先に図鑑などを読んで恐竜や古代生物などにはまったお子さんが全体のつながりを知るために、この本に立ち戻ることもできます。
 わたしはバージニア・リー・バートンと、かこさとしさんの絵本が好きで、息子が赤ちゃんのときによく読み聞かせていました。もうそんな時期はすぎてしまいましたが、幼い頃に読み聞かせた本が、いまも息子の一部になっているのがよくわかります。
 郡司さんは動物を専門とする研究をされていますが、子ども時代にはどんな本を読まれていたんでしょうか?

郡司: あまりはっきりとおぼえていないのですが、母によると、幼稚園から小学校低学年にかけては、月刊誌の「かがくのとも」や「たくさんのふしぎ」を繰り返し読んでいたそうです。あとは、通信教育の「こどもチャレンジ」を受講していて、そこに掲載されていたいきものの観察のおはなしと、その音読テープが大のお気に入りだったそうです。自分ではおぼえていなくても、そういった作品を通していきもの好きになっていった気がします。知育絵本の草分けともいわれている、たむらたいへいさんの『1から100までのえほん』もよく読んでいたそうです。
 文字が読めるようになると、『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』、「ドリトル先生」シリーズを夢中になって読んでいました。小学校中学年くらいからは、ジュール・ベルヌやコナン・ドイルなど、いろいろないきものが登場する冒険小説をよく読んでいましたね。

「進化」をここまで深掘りした絵本に大人もおどろき

――本書は科学が苦手な大人でも楽しく学ぶことができます。翻訳の際にもそう思われたでしょうか?

鹿田: 私自身も、この本を訳しながら、ずいぶん勉強させてもらいました。自分の体験からいうと、最初のページから順を追って読んでいくと、まるでジグソーパズルのピースがひとつずつはまって1枚の絵が完成するように断片的な情報が体系的な知識として身につくという、うれしいおどろきがありました。「科学の本」よりは「生命の物語の本」という視点で読むと、リラックスして楽しめると思います。新しい種が生まれたり、絶滅したりといった壮大なストーリーに心を動かされるのではないでしょうか。

――原著の刊行時には「児童書なのに内容がガチ」「これでもかとトピックを盛りこんだすさまじい進化絵本」など科学書好きの読者にも話題となりました。大人の読者へのおすすめのポイントはどこでしょうか?

郡司: 第1章の「進化とはなにか」には感心しました。「進化論」「遺伝子、DNA」「種」など言葉としては知っていても、いざ説明しようすると難しいことを、わかりやすい絵とともに丁寧に解説しています。わかっているつもりのことでも、本書を読むと新たな発見があるのではないかと思います。

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鹿田: わたしは遺伝子の解説と絵がわかりやすくて、ためになりました。本書は最新の研究をもとに書かれているので、知識のアップデートにも使っていただけたらと思います。巻末の「調査ファイル」はトリビアの宝庫で子どもも大人も楽しめますので、ぜひお見逃しなく。

お気に入りのページを見つける楽しみ

――翻訳や監修に際しては、どのようなところに注意されたのでしょうか?

鹿田: 幅広い年齢層の読者に向けて、「わかりやすいけれど幼くなりすぎない」ように言葉のバランスに注意しました。お子さんに読み聞かせをする場面を想像して、耳で聞いただけで意味がとりやすい言葉を使うことも、意識した点です。実際に小学生の息子の前で音読をして聞きづらいところがないかをチェックしたり、本書の絵を見せて同じものがのっている図鑑があれば確認したりといった作業を繰り返すことで、子どもの目線を常に忘れないようにしました。そんなやりとりを通じて、私自身が学ぶことがたくさんありましたし、「子どもにも大人にも楽しんで読んでもらえる絵本だ」という確信がさらに強くなったと思います。

郡司: 「言葉のバランス」は監修に際しても同様で、「子どもでもわかるように」と「子どもっぽい表現にならないように」の2つをずっと意識していました。原著の単語を見ていると、結構専門的な用語も出てくるんです。専門用語が多すぎると「難しすぎて読めない」となるし、一方で専門用語をすべて簡単な言葉に書き直してしまうと「興味をもって専門的な用語をおぼえる」機会を失ってしまう。
 自分が子どもの頃もそうでしたが、子どもは興味をもったことは、わからなくても調べたり尋ねたりして、すぐにおぼえます。興味をもってもらいつつ、いろんな言葉にふれるきっかけになるように、とても気を使いました。鹿田さんや編集の方とも相談しながら、「簡単な表現に言い換える言葉」と「注釈を追加して説明する言葉」のどちらにするか決めていきました。

――ご自身のなかでいちばん興味深かったトピックはなんでしょうか?

鹿田: せきつい動物の骨格を並べたページは、何度見てもおもしろいです。背骨をもつ動物の基本的なからだの構造が同じであり、人間とウシやニワトリやカエルなどの骨格には共通点があることが示されていて、いきもの同士がつながっていることを改めて感じます。
「ダーウィンとウォレス」の功績を紹介するページも気に入っています。有名なダーウィンの影に隠れがちなウォレスにも光を当てた解説は、貴重だと思います。ほかにもいろいろありますが、人間が進化しつづけているという解説のページも印象に残っています。「指やつま先に水かきができてくるかも……」と、子どものようにワクワクしながら翻訳しました。

進化絵本_本文画像アタリ見開最終 7+

郡司: わたしは、さまざまな見た目のヤモリが登場し、進化論の考え方について説明する「進化の大発見」のページが好きです。児童書では「〜するために進化した」という説明をすることが多いですが、実際には「目的をもった進化」というのはありません。同じ種のなかに多様性があり、そのなかで生存に有利な個体が生き残り、長い時間をかけて環境に適した見た目・行動をもつ生物へと進化するのです。そういう点でも、「進化の大発見」のページでは進化の概念を丁寧に正確にわかりやすく説明しているので、気に入っています。
 人によって「面白い!」と思うページはまったく違うと思います。ほんとうに多様なトピックがあるので、ぜひお子さんと一緒に読んで、「どこがいちばん面白かった?」と感想を話し合って盛りあっていただければうれしいです。

プロフィール

郡司さん+

郡司芽久(ぐんじ・めぐ)
筑波大学システム情報系研究員。2017年3月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程にて博士号(農学)を取得。同年4月より日本学術振興会特別研究員PDとして国立科学博物館勤務後、2020年4月より現職。帝京科学大学非常勤講師(動物解剖学)。専門は解剖学・形態学。第7回日本学術振興会育志賞を受賞。著書に『キリン解剖記』(ナツメ社)。

鹿田さん+

鹿田昌美(しかた・まさみ)
翻訳家。国際基督教大学卒。訳書に『フランスの子どもは夜泣きをしない』(集英社)、『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる最高の子育てベスト55』(ダイヤモンド社)、他多数。

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